第一話 異世界からの帰還。帰ってきました、我が祖国

3/3
前へ
/97ページ
次へ
 異世界ビルヴェンシアでの話をしたところで、信じてもらえるとは思えない。「こりゃあ言い訳はできねえな。ティナは天界に帰るしかない」と言うと、ティナは当然のように作り話を始めた。 「まあ、優馬くんが幼稚園のときにプロポーズ……。お母さんなら知っているかしら?」 「すみれお姉ちゃんも知らなかったの?」 「俺も知らなかったぞ」  家族三人が違いに顔を見合わせている中で、俺はティナを隅っこに呼びだす。 「嘘吐くんじゃねえぞ。どういうことだ。ティナ・アーリストは日本で生まれて、最近までフランスに行ってたけど、まだ日本にいた小さい頃に、俺がプロポーズをしただと? 適当なことを抜かしてんじゃねえぞ」 「嘘じゃないよ。私の力で、地球に私の存在が入り込めるようにしておいたの。私を誰だと思ってるの?」  したり顔で見つめてくるティナに、俺は歯ぎしりをすることしかできない。 「それで、優馬くん」  すみれちゃんは神妙な面持ちをして、俺たち二人の顔を覗き込んでくる。俺は怒られると思い、ビクッとしてしまう。 「エッチするとき、必ずゴムはつけてる?」 「二枚重ねです」とティナは親指を立てる。 「それは素晴らしい心がけだわ」 「二枚重ねは冗談ですけどね。でも、そこらへんはしっかりしているので、ご安心ください」  ティナが桜井家に馴染み初めている中で、話題は彼女自身のことに移った。親父は神妙な面持ちをして言う。 「それでティナさんは、ご両親の都合で故郷のフランスに帰っていたが、最近、再び戻ってきた、と」 「はい」 「ご両親の方は? 挨拶しておきたいんだが、大丈夫かな」 「両親共働きでほとんど家にいないから、すみません。けれど、近々伺うことになるとは思います。私、いつも一人ぼっちなんです。それで、つい寂しくて、優馬の部屋に忍び込んじゃったんです。今日も、そういうことだったんです」 「ものすごく積極的なのね」 「昨日引っ越して直後って、すごいね。私たちがここに住んでるって知ってたの?」 「たまたまですよ」  ティナは神様だから、万に一つの「たまたま」を生み出すことが可能なのだ。 「ふうん。何だかラノベに描いたような話だな」と親父が不思議そうな顔をして呟く。 「まあ、とりあえず大体の事情はわかったわ」とすみれちゃんは笑顔を見せる。「また寂しくなったときは、いつでもうちにいらっしゃいな。ティナちゃんの分まで、ご飯を用意して待っているわ」  ティナは涙目になり、ぺこりと頭を下げる。 「ありがとうございますっ! お姉さまぁ!」  それから、俺はティナを家まで送っていくことにした(すぐそこの家だけどな!)。 「それじゃあ、ティナちゃん、またいらっしゃい」 「私も、待ってるよ」 「俺たちに、そんなに気を使わなくてもいいからな」 「ありがとうございまーす!」  大切な長男の発育家庭を、もう少し繊細に見守ってくれてもいいんじゃないか?、とため息を吐きたくなった。 「あ、それと、二人とも」 「何だ?」 「何ですか?」  すると、すみれちゃんは、「もう一度確認するけれど……」と人が生きていく上で最も重要な事実を確認するかのような重みのある表情で言った。 「エッチするときは、必ずゴムを付けるのよ」 「すみれちゃん……」 「はぁい」
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加