3 時計棟(当日)

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3 時計棟(当日)

時計のある その棟の 進みすぎた時計の針が気になった いつかあの棟によじ登って 正確に時刻を直したい 欲望に駆られた 棟にある時計の針は 結局 何一つ正確なことを伝えないで 回転している ただ時計盤の周りを意味を欠いたまま 回っているだけの 物理現象 道の一つの窓が 不意に割れた 鳥でもぶつかったのか だが窓のある場所は 静寂のまま 君の首筋への愛撫に近い 触手 その柔らかい手のひらを 乾いた手のひらを 僕は見つめながら その腕の柔らかさを 確認しながら おやすみを言う 僕に似た君 進みすぎた時計を見つめる 君の髪を撫でる パサついている 頬の その頬の愛おしさに 微笑む その瞳の大きく開いた輝きに はっとする 目を閉じた君の顔 柔らかい接吻で 口を閉じろ 僕はそっと 君の身体に 毛布をかける 窓を眺める その反対側の 窓を開ける 漆黒の闇が広がり 夜風が部屋に入る 潮の香りと潮風が 部屋を乱すような気がした 僕はそのまま 窓から飛び込み その下の 海の暗さに 水しぶきを上げる 深く潜り込む 暗い 静かな海中 暗くて見えない 沖までひと泳ぎ 気がついたら 夢の中 僕は自分の尿でぐしょぐしょにした 海原で 目を覚ました 子供の頃以来だ 僕は 朝になったら 布団を日干しにしたかった 愛しき人の淡い面影 その頬に接吻した 夏の終わりの 夕暮れ過ぎた 暗い夜 君が好きだと口にした 部屋の音の響き 僕はポケットに 贈り物を持っていた あの 正確な意味を 何も伝えない時計 僕はあの島で いつも眺めていた
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