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17 逃亡(当日)
貧しい街に生まれた僕は
殺人鬼になった
10代はおとなしい
地味な子供だった
18歳で仕事に就き
毎日 ぼたもち作りの
工場で働いた
万引きと
コンビニ強盗をやって
捕まったが
服役してから
数年経って
また別の街で
生活し始めた
福祉の人とやらが
仕事がしたい
真面目な人たちが
失業しているのに
僕に塗装の仕事をくれた
優遇されている
と思ったので
悪く思い
近所の元サラリーマンのおじさんに
自分の代わりに
そこで働くよう
勧めた
仕事はハードに見えて
意外と楽
給料の払いも悪くない
ボーナスもつく
自分のような独り者には
もったいない
安定した仕事なので
妻子もいて
大変なあなたにこそ
ふさわしいと
告げたが
福祉の人が
話を
なかったことにしてしまった
その困っている
おじさんではなく
僕がそこで働かないと
福祉の人の
成果にならないらしい
頭にきたおじさんは
僕に
前科者の仕事なんかいらないよ
と怒鳴ったが
僕はそれには
腹も立たず
福祉の人を
殺して埋めた
僕はその後も
ホームレスを利用して
格差ビジネスをやっている
会社の社長を殺した
その私腹をばらまいた
また自分は
大学という
モラトリアムのシステムに守られながら
社会問題研究と称して
弱者をネタに商売している大学教授を
拷問して 何人も殺した
殺した教授の後釜の助手も
何人も殺した
これからも殺す
そしてこの街に来た
たまたまだが
既に指名手配には
なっている
顔を隠して
転々としていたら
この団地の一室の
誰も住んでいない室の
鍵が開いていた
しばらく
ここに住んでいよう
と思った
部屋の出入りは
人目につかない深夜だけ
いつも
ネクタイとスーツを着用すること
怪しまれないように
行動しなくては
食料の買い出しは
深夜にまとめ買い
静かな街であり
静かな団地だった
深夜に多分
住民とすれ違った
初めてのことだ
昨日の深夜
当然
誰だか知らない
向こうも知らないだろう
スーツ姿で
ハンチングを
目深に被っていたので
こちらの顔は見られていないはず
不安もあった
だから
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