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「神楽先生は、いつもここにいるんですか?」
「時間が空くとな。ここで妄想に沈む」
「素敵。私も先生の妄想に加えてください。たくさんいたぶって、じわじわ出血させながら殺してほしいです」
「そうだな、そのうちきみも使わせてもらう」
神楽先生が笑った。初めてみる笑みに、私は口から心臓が飛び出そうなくらい驚いた。笑うと少年のような顔つきになることも知った。そして、神楽先生の私を見る瞳が、これまでのように他人行儀なものから、僅かばかりの親しみが宿ったものへ変化していることにも気づいた。
今日という日を私は一生忘れないだろう。
「そろそろ帰るといい。陽が暮れる前に」
「あ、はい。……また、来てもいいですか」
「ああ。だが、いつもここにいるわけではないぞ」
「そう、ですよね。学校で話しかけるのも不自然ですし」
なにしろ、受け持ちクラスでもなければ学年さえ違うのだ。接点がないのに、私から神楽先生に話しかけては目立ってしまう。
「アドレスを教えておこう」
え、と私は口をひらいた。
「何を意外そうな顔をしているんだ」
「本当に? いいんですか?」
「構わない。恋人なんだろう?」
からかうような口調に、私は頬を染めて頷いた。
神楽先生とアドレスを交換して、私は内から溢れ出る喜びに身を浸しながら帰路についた。
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