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「おはよう、ひな」
××高校へ向かう途中、私に声をかけてきたのは小森琴音だった。同じクラスである黒髪におさげ姿の彼女は、にんまりと得意げな笑みを浮かべている。
そばかすが散りばめられた顔は、美しくはないが愛嬌があった。
「おはよう、琴音。今日は早いのね」
「じつは、ひなを待ってたんだ」
そうだろう、と思ったけれど、口には出さなかった。琴音はいつも時間ぎりぎりに登校してくる。よって、今日のように“たまたま”出会うことは、滅多にないのだ。
「何か用事なの? だったら、メールで連絡くれればよかったのに」
「ワタシの口から言いたかったんだ。あのさ、例の事件の新しい情報が入ったんだよ」
そう言って、琴音は声をひそめる。
またあの事件の話か、と私は辟易した。
「例の遺体なんだけどさ。刃物で切り刻まれてたって話だけど、傷痕がすごく荒かったらしいんだ。鋭利な刃物は使わなかったみたいだね」
「そうなの」
「生きたままあちこち切り刻まれたって話だけど。かなり猟奇的だね。犯人は、なぜ鋭利な刃物を使わなかったのか。あえて被害者を痛めつける犯人の心理……そこに、犯人を特定する鍵があると思わないかい?」
琴音はこと「事件」に関して、敏感だった。どうやら自分は名探偵にも匹敵する頭脳を持っていると思い込んでいるようで、置き引きから殺人まで、様々な事件の詳細を調べては独自の推理を展開して私にきかせてくれる。
正直、私にとっては興味がないことだ。
けれど、推理を披露する琴音はとても生き生きとしているので、私は琴音の推理をじっくりと聞くことにしている。
「ワタシは、犯人は少女趣味の青年だと思うね。遺体で見つかった少女は、可愛いと有名な少女だったというじゃないか」
「あら、そうなの」
「まず、犯人は間違いなく少女より年上で、力も余裕があるはずだ。犯人は自分より非力な者を狙う心理を持っている。当然だけどね。とすれば、相手は男だ。そして少女は最後に目撃された場所から二十キロ以上離れた場所で、遺体で発見された。移動手段に車を用いたことは確かだろう」
「つまり車の免許を持っているのだから、少なくとも十八歳以上だって言いたいのね。でも、免許がなくても車は運転できるわ。車を盗んで、無免許で運転したのだとしたら?」
「……それは考えていなかった」
琴音は、唇を尖らせて俯いた。
自分の推理に穴を見つけて、再び思考の海に沈んでいるのだろう。そもそも、琴音が得意げに語った内容も、推理というにはお粗末だ。誰でも想像できうることだし、確証もない予想ばかりである。
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