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 神楽先生は私のもとまでくると、私の手から花瓶の破片を取り上げた。 「今ここで必要以上に傷つければ、過剰防衛どころではない。もっと考えて動け」 「……すみません」 「それで? なぜこうなった」  私は端的に、何があったのかを説明した。神楽先生は呆れたようにため息をつき、携帯電話を取りだした。 「警察に電話する。お前も事情聴取などあるだろうが、余計なことはしゃべるなよ」 「わかっています」  神楽先生が電話しているあいだ、ふと、視界の端に人影が写った気がして、ぎょっとして振り返った。  校長室の前にある正面玄関、そこに琴音が立っている。 「琴音? どうしたの?」 「どうしたは、ワタシのセリフだよ! こんな時間になってしまったから、ひなを家まで送っていこうと思って戻ってきたんだ。ワタシは不細工だから大丈夫だけど、ひなは可愛いから変質者に襲われかねないだろう」  そんなことはない、と言おうとした私を遮り、琴音は続ける。 「武井先生がなぜ倒れてる? もしかしてひな、ついに武井先生にセクハラされたのかい!?」 「そ、そんなところ、なんだけど」  駆け寄ってきた琴音は、がしっと私の両腕を抑えた。そして、撫でるような手つきで全身を触れていく。 「怪我は?」 「ないわ」 「よかった。何がどうなってるのか、説明してほしいんだけど」 「えっと。……琴音が言ってたように、教室の事件はカモフラージュだったの。千絵が行方不明になったのは、武井先生のせい。水槽に陶器が増えていたのは、武井先生が凶器を隠そうとしたからなの」 「武井先生が、犯人? じゃあ、千絵は」 「……殺した、って言ってたわ」  琴音の顔から、表情が抜け落ちていく。ふらふらと武井先生を眺め、そして唇を噛みしめた。 「ワタシの推理は、正しかったんだね」 「え、まぁ、うん、そうね」 「……悔しい。被害者を守ってこその、探偵なのに」  琴音はそう呟いた。  今回ばかりは防ぎようがなかった気がするが、それでも千絵は琴音にとって大切な友人だったのだろう。私は何も言えず、ただそっと琴音の肩に手を置いた。
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