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難しい顔で教室を見回した武井先生と、目が合った。
「古谷、来てたのか」
私を名指しで呼び、武井先生は破顔する。にっかりと微笑むとコピー用紙のような白い歯が覗き、頬にはえくぼができた。
「古谷はクラス委員だろう。率先して先生に知らせにきてほしかったぞ」
「すみません、私も今来たところなんです」
「ああ、そうなのか。それなら仕方ないな。そうだ、クラス委員の仕事を頼みたいんだ。昼休み、職員室まで来てくれないか」
わかりました、と小さく呟いた。武井先生には聞こえていたようで、満面の笑みで二度頷くと、辺りを見回して右手をあげた。
「さ、机を戻すぞ。みんな、手伝え」
男子生徒はそれぞれ動き出したが、女生徒の視線は私に集中していた。これまでも武井先生が私に話しかけるたび、女生徒は不愉快まるだしの目で私を見る。どうやら私は、武井先生に贔屓されているらしい。私自身もそう感じているのだから、周囲の生徒は確信しているのだろう。
これまでも、女生徒が私を敵意の眼差しで見ることは多々あった。けれど、今日の彼女たちはこれまでにないほどに鋭い眼光を放っている。殺気に近いと言ってもいい。
私と彼女たちのあいだには、倫理という柵のようなものがあった。けれどたった今、その柵のようなものを飛び越えてきた音が聞こえた気がした。
ああ、面倒くさい。
私はこっそりとため息をついた。
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