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「教師を誘惑して、自分だけ甘い蜜を吸おうっての?」
「そうよ、先生はみんなのものなのに」
「最低、クラス委員だってこと利用して、武井先生に取り入ろうなんて」
桃田に便乗した女子たちもまた、口々に私を罵り始めた。その表情は口をすぼめたミイラのようにみすぼらしく、禍々しい。女の嫉妬を貼りつけた少女たちはとても滑稽だった。
「さっさと謝れば?」
桃田が、私の肩を押した。決して強いものではなかったが、急だったためにバランスを崩し、後ろへたたらを踏む。
「謝りなさいよ、ごめんなさいもうしませんって」
また肩を押される。今度は先ほどよりも強い力がこもっていたために、肩に痛みが走った。それでも今度は予想できたので、踏ん張ることができた。けれど、私が踏ん張ったことに桃田は苛立ちを覚えたらしい。どん、とすもうのつっぱりのように両手で肩を押され、ふっとばされるようにして床に倒れた。
スカートが汚れてしまう。人が立ち入らないだけあって、踊り場には埃がたまっている。黴のような黒い染みもあちこちにあり、幼いころに家族で行った古い銭湯を思い出した。
「無言貫くなんて、あたしたちをばかにしてるの?」
馬鹿にしているわけではないけれど、答えたら答えたであなたたちの神経を逆なでするでしょう? どちらにしても同じならば、余計なことは言わないほうがいい。法定で証言が重要視されるように、ヒトの言葉は強い力を持つのだから。
それからも、桃田たちは私に対して罵詈雑言を浴びせた。そろそろなんとか抜け出さなければ、昼休みに武井先生のもとへ行けなくなってしまう。
「いい加減にしな!」
桃田が右手を振り上げた。
振り上げられた平手を見つめ、ああ叩かれるのねと身構える。これで彼女たちの気が済むのなら、甘受しよう。ただ、頬が腫れるくらい打つのは勘弁してほしい。
「何をしている」
は、と意識が弾けた気がした。
聞き覚えのあるバリトンボイスに、私は勢いよく振り返った。四階から、手すりに凭れるようにこちらを見上げている神楽先生がいた。その目はぎらぎらと強い意志に燃えており、怒気が読み取れる。
私の胸中での歓喜とは真逆に、桃田たちは縮み上がった。屋上付近の踊り場に来たのが運の尽きだ、逃げ場がない。
「何年生だ」
「……二年です」
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