義肢の用心棒

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ある晩夏の夜、村で山賊と村人の大規模な戦いがあった。 大半の村人が死に山賊は火を放ち逃げた。 唯一の寺院である御庄寺も焼けたが雨で多少は残った。 時は経ち、秋の夕暮れに村外れの橘流柔剣道場に[櫻流会]を名乗る侍が数人ほど馬で来た。 筆頭であろう男が 「ここの主人は居られますかな?」 と訪ねた。 妻の師子は 「今、山に行っておりますのですみませんがお待ち下さい」 と答えた。 数秒後、主人である源示が山から降りて来た。 家の近くになった時に弟、衛直の叫び声が聞こえた。 急いで駆けつけると弟は斬り倒れ、妻は人質に取られていた。 「衛直ーー!!、妻を離せーーー!!!」 即座に刀を抜く。 相手は何も喋らない。 胸に桜の紋章があった。 「桜……」 すると、一気に囲まれた。 勝負は一瞬であった。 一人に足をやられたが四、五人を斬り妻の声が聞こえたので振り返ると目の前に男が立っていた。 遅かった。 奴は下から上に刀を振り上げる。 守りの為、挙げていた右腕。 右腋の大円筋から骨を通って右肩の棘上筋へ刃が入り横向きの柄(親指と鍔の間)を斬ると同時に右顔の笑筋から眼を通って前頭筋の真中まで一気に行った。 「ゔぁーーー!!」 勢いで後ろへ少し飛ばされ 「ゔぐぐ………」 秋風で血液が飛ぶ。 蹲る源示の元に男が忍び寄る際に刀を踏み折った。 叫んでいた妻が気絶させられ馬に積まれる。 声を出せないまま気が遠のいて行く。 一体何時間経っただろうか。 薄暗い牢に腕が直った状態で別々に入れられ妻が何人もの男に犯されているのを目の前で見ている。 妻も懇願し見せつけてくる。 「うわぁぁーー!!」 一気に起き上がると周囲の景色が一変、古ぼけた廃寺院の様だ。 「目覚めたか」 右目が光を取らない状態で灯りがある方を見ると剥がれた床板を集め暖を取っている老人が見えた。 「誰だ!?」 「誰だとは恩人に言う事ではないの」 「………すまん」 「まぁ、警戒するのも悪くない」 「俺は橘 源示。今は刀なき浪士だ」 「儂は澤村 由四郎之助じゃ」 老人の手には火に照らされた木彫仏があった。 「木彫りの仏…?」 「あぁ、今は彫刻家での」 「今は?」 「元は幕府専属の医者じゃった」 今まで気にしていなかった右腕にふと違和感を感じ袖を捲った。 「なんだこりゃ!!」 木と鉄で出来た腕、義腕であった。 「其処にあった瓦朽多の山から壊れた義腕ともう使い道のない儂の医療道具で作ったんじゃ」 「すごい」 「どうじゃ?様々な仕掛けを隠しておる」 色々と試した。 すると、外で悲鳴が聞こえた。 古びた壁の隙間から状況を覗く。 食料を持っている幼い少女が山賊に囲まれている。 「……刀…」 「えっ?」 「…刀はないか?」 「あ、あるが…」 「貸してくれ」 一本の刀を手渡された。 「宝刀と呼ばれた逸品らしい」 「濡れた紙?燕の尾?」 「ジュシエンビと読むそうじゃ」 源示は左腰に挿した。 少し様子を伺いながら 「俺にも娘がいた。今、丁度あの子と同じ歳だ」 「いた?」 「産声をあげないまま……」 「…死産じゃな」 「あぁ」 沈黙の後に 「分かった」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!