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第七章 静寂な時間
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賢悟の寝顔を見つめながら、徹は彼に話しかけていた。
「……アンタが生きててくれて、本当によかった」
でなきゃ、オレ……自分で自分がどうにかなっちゃっていたかも。
「血だらけになったアンタを見たときは、ホントに生きた心地がしなかったし…」
救急車を待つ間、オレは何をやってたかなんて、実ははっきり憶えていないくらい。
徹はまるで賢悟が黙って聞いてくれているかのようにして優しい声で語りかける。
……出来れば、早く目覚めて欲しい。いや、こんな大怪我をしたのだから、大事をとって
ゆっくり休んでくれてもいいのだけれど…。
「賢悟……また“かえるの健さん”に呑みに行こうね」
やっぱり起こしちゃ可哀相かな…。
そんな葛藤を何度もしながら、徹は賢悟の顔を覗きこみ、静かに眠る優しい寝顔の彼の唇に、そっとキスを落としていた。
「お早うございますー!失礼しますよー」
と、そこへ、入室してから声をかけるという、かなり無礼な二人組がこの病室へとやってきた。ここに来る前に、“わんわん宅配便”の事務所を訪れた、山田と田中の警察コンビだった。
その二人、病室に入ってきて早々、一瞬で言葉を失った。偶然徹が賢悟に熱いキスを落としているところを目撃してしまったのだ。
「あ、あの…えー………っと、お取り込み中にスンマセン!!」
気まずいと思ったのはこの二人だけであり、見られた本人である徹は、きょとんとした様子で振り返っていた。
「ああ、山田と田中か。なんか用?」
「なんか用?じゃないでしょう?用があるから来たんですよ、社長!」
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