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カランコロン
「いらっしゃいませー」
ドアを開けると可愛らしい女の子と、女の子より少し背の低い男の子が迎えてくれた。顔が似ている。姉弟だろうか。
「おひとり様ですか?」
「あっ、はい」
「こちらへどうぞー」
女の子に勧められた席に着いた。店内は、綺麗に掃除されていて、窓からさす夕陽の赤さで染められている。
と、男の子の店員さんが近づいてきた。
「メニューはお決まりですか?」
「えっと、ホットコーヒーで」
「かしこまりましたー」
改めて周りを見渡すと、自分以外の客がいないことに気づく。窓からはあんなに美しい海が一望できるのに、どうしてもっと宣伝しないのだろう。ここの場所を知っている人がいなくて、たどり着くのに半年もかかってしまった。
俺には、会いたい人がいる。3年前に病気で亡くなったあやめ。愛らしくて、優しい人だった。でも、あやめと付き合ってまだ2年経たないうちに彼女は帰らぬ人となった。もう一度だけでいいからあやめに会いたい。そうぼやいた時、友達から、この店の噂を聞いた。そんなことがあるわけないとその時は返したが、あれからずっと気になっていた。
やっと、噂の店にたどり着いたけれど、これからどうしよう。店員さんに「亡くなった彼女に会いたい」なんて言う訳にはいかないよなぁ。あんなの根拠の無い噂だし、そもそも普通に考えて、亡くなった人に会えるわけがないじゃないか。きっと、変な人だと思われるのがオチだろう。あんな噂が本当なわけがないんだ。なんで俺、今まで必死に信じてたんだろう……。なんだか思考がネガティブな方へ傾き始めた時、コーヒーが運ばれてきた。
ふと優しそうな男の子の顔を見ると何故か心が決まった。よし、どうせもう来ることは無いんだ。多少変な人だと思われてもいいじゃないか。聞くだけ聞いてみればいい。
「砂糖やミルクはセルフサービスとなっております。ご注文は以上でよろし……」
「すみません!ここで会いたい人に会えるって本当ですか?!」
「お、おぉ……、びっくりした……。えーっと、確かにここで会いたい人に会えるには会えるんですけど」
「ですよね。そんなわけない……ん?あえる……えっ!会える?!」
「ただこの店、丘に夕陽のさす時間までしか開けてないんです。だから、あと3分くらいで今日は閉めちゃうんです。今日は無理なので」
「明日来ます!」
急いでコーヒーを飲み干すと、俺は支払いを済ませて店を出た。
来た道を戻り、細い路地までたどり着いた。1回心を落ち着かせてみたが、やっぱり信じられない。本当に会えるのだろうか。もしかしたら、今までのは全て夢なのでは?でも、確かに口にはコーヒーの味が残っている。じゃあ、からかわれたのか?頭のなかがグルグルしているまま俺は帰路についた。
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