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「おつかれ」
「ありがと」
オレは桃にオレンジジュースを差し出しながら、窓から依頼人のほうを見た。彼のように死んだ恋人に会いたいとこの店に来る人は多い。特に事故などで急に逝ってしまった人に実際に言いたいことがある、聞いてほしいことがあるという人たちは少なくない。そんな人たちのために自分の力を使いたいと桃が言い出したのが約三年前、オレと桃が中学一年生の時だった。
両親の店のすみを借りてお悩み相談みたいな感じで始めたけれど、一回霊を降ろすだけでも相当な労力らしく、張り紙とかは使わずに風のうわさだけでやっていくことにしている。うちの店は海が目の前に広がる自然豊かなところだから、桃は自然の力を借りて霊を降ろしているらしい。まあ桃のあの力はオレにはないから想像するしかないんだけど、きっと大変なんだろうなって思う。
「ねえ静流なにぼーっとしてるの、聞いてる?もうすぐ日が沈むよ。行こう」
「すみません、そろそろです。あと三十秒くらいしかありません。最期に言い残すことはありませんか」
「ええ、私急に死んじゃったから今日話せてうれしかったです。ありがとうございました。じゃあね」
「うん。じゃあな」
あやめさんは夕陽のオレンジ色の光が消えるのと同時にすうっと消えていった。
「本当にありがとうございました。あなた達姉弟のお陰であやめと会うことが出来ました」
そう言って依頼人は帰っていった。
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