第十一章  大魔導師と妖精と 

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「俺は、野営の時に豪快に干し肉をかぶりつく姿もいいと思うけど?」 「ちょっと!」 思わず私は声を上げてしまう。 「ほぉ、麗しの勇者殿のワイルドな姿もそそりそうだな」 ゾリアさんが流し目で煽る。少し鈍感な私ですらこの人すごい色っぽいってわかる。 なんだかんだ言ってもリーディは王子様で、もちろん男性のセクシーさもあるけど 気品とかそういうのが勝ってるんだよね。 「リーディ、ゾリアもからかうんじゃないの。」 フィレーンさんがたしなめてなんとなく空気が和やかになったんだ。私が少し緊張をしていたのを、あいつはほぐそうとしてたのかなって思う。彼は私に話しかけるときは決まって旅していた時と変わらないからかい口調だ。  その後、旅の話などを軽くして楽しい会食だったけど…気になることがあった。  会食時キャロル、私、メイで並んで席に着いていたんだけど、例のゾリアさんが気障な口調で話しかけてきて。キャロルには清楚な百合のようだとかメイには艶やかな舞を見てみたいね、共に踊らないかとか、とか、私には星のように輝くその姿がなんたらかんたらで、(聞いてなかった)しかし秘めたる力がとか、  とりあえずよくまあこれだけスラスラ口説き文句が出るなーとあっけにとられながらも感心して聞いていたの。その横でレオノラさんが静かに微笑んでいたんだけど、リーディがまたもや 「こいつ生真面目だからゾリア、口説くのほどほどにしないと剣で一突きだぜ」 って冗談言って絡んできたんだわ。 その時だった、 「物騒ね。」 と、レオノラさんが穏やかな口調で言ったのだけど、優雅に微笑んでいるようで、目が笑ってなかった気がした。もともと女性らしい可愛い顔立ちだから余計凄みを言葉に感じたのかな。そのあとメイとゾリアさんがなんかフォローのつもりのことを言って流れが戻ったけど。気のせいだろうか。ただちょっと引っかかっただけ。  レオノラさんは、私が数年前にまだ学校に通っていた時にも周りにいなかったタイプの女性で、私、どう接すればいいのかわからなかったから気になっただけだね、たぶん。 そして会食の後、私達5人とプリオール、フィレーン王女とゴードン老師で、これからの指針を話し合った。 (明日でもよかったけど、もう今日のうちに済まそうということになった。一日も早く色々動きたかったから。) ペンダントの貴石と付随する五元素の神の話、エターナル・メタルの洞窟の話、プリオールが師事したい、大魔導師ヴィーニーのことも。 「貴石にそんな意味が…。」  老師がコウの力を得たペンダントを見つめた。 「五元素の神。海の神カナロア、地の神キシャルー、金の神インバー、火の神ウェスタ、 風の神アネモイ。五大神に纏わる場所と言えばこのスフィーニの島から北東に進んだ小さな島に、金の神インバーに纏わる洞窟があると聞く。あと我が国は太陽と風の国と言われる故に風の神の言い伝えはいくつかあるから調べてもよさそうじゃな」 「それは…!!僕が目星付けていたエターナル・メタルがあると言われる洞窟のことです。老師、今初めて繋がってきた気がします。まさか、金の神の縁の洞窟ならきっと…」 コウが確信をもって頷いた。 「じゃぁ、そこに行けば誰かのペンダントの力も…!!」 「最後の仲間のヒントにもなるかな?」 「だよな、最後の仲間の持っているペンダントに呼応しているかもだし。あと風の神のことも。じぃ、申し訳ないけど頼む。」 皆少し希望が見えたようで、瞳に力が灯されたよう。私はそう思って口を開いた。 「まず、それは一つのミッションとして、置いておいて、プリオールが師事したいというヴィーニー大魔道師のことだけど。」 「ヴィーニーに会いたいと申すか?」 老師が少し溜息をつくが、プリオールは力強く頷く。 「確かに我が国の城下を、ゴードンと一緒に救った大魔導師よ。ただ…」 フィレーンさんも少し遠い眼をして溜息をつく、私は思わずリーディに目を向ける。彼も神妙な顔つきだ。 「ああ、ヴィーニーは実のところ俺が3年前に自分の魔法力を高めるために数か月だけ師事した魔導師のことだが、んー、あのばーさん抜け目ないからなんか要求をしてくるかもしれないな。」 「要求?」 「俺は王子だからって、そこまでではなかったが…ただ、手の甲にキスしろと言われた。誰が好んで…。」 リーディは思い出したようにがっくり項垂れる。…嫌だったのね。  でも、プリオールの意志も叶えてあげたいのよ。カナロア神を護るためなんだしね。 「まぁ、行くだけ行こうよ。行動あるのみじゃない?なーんだキスぐらいで! リーちゃんのキスなんて減りやしないんだし。」 メイが前髪を触りながらニヤッと、口角を上げるのでリーディは勘弁と言いたげな表情をした。  それがおかしくて皆で笑ってしまった。私ももれなく。くすくす笑っていたら一瞬あいつと目が合った。向こうも気が付いたらしい、また憮然とするのかなと思ったのだけど、違った方向に裏切られた。 何故ならその目線は合った瞬間切なげに私の瞳に注がれたから。…ほんの一瞬だけど やだ、こんな時に。 ―――キスなんて減りやしない――― メイが言った言葉が呼応する。 ―でも、私それすらまだ、恥ずかしいんだよ。 私はフイっと顔を背けることもできず、少し俯いた。
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