第十一章  大魔導師と妖精と 

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確かにその通りだ。メイはいい女だ。 お淑やかなキャロルや、ツンとして見えて一見生真面目なステラより愛嬌あるし。 しかし俺はメイの良さは別に見ている。それは俺の毒舌にも軽く流せる余裕(その返しがうまかったりする)と、機転が利くところだ。 まぁそれはいいとして…断られたってことは? 「かわいらしい弟君が笑顔でガードしているってわけよ」 やっぱりな。コウのことだなと案の定と思ったら、 「…それだけではないけどさ。」 と意味深につぶやいた。 それが一瞬気になったが、すぐに今度はゾリアが訊いてきた。 「リーディは変わった。少し吹っ切れた感じだな。」 「え?」 「あの時、魔性の襲撃の後、心を病んでいた時だ。ずっと自分を責めていてさ。」 「…。」 「でも、だいぶ前向きになったのはあのお嬢さんのおかげ?俺の口説きにうっとりもせず、ぽかんとしていた勇者ちゃん」 「ステラのことか?」 「そ、たいていの女性は恍惚とするもんだが、もしくはたまに嫌悪感も示すお堅いレディもいるけどぽかんとされたのは初めてだぜ。」  クックッと咽喉を押し殺すように笑う。 ステラの良いところでもあり悪いところでもある、ある種の鈍さがゾリアにとっては 新鮮な反応でおかしかったらしい。でもさすがステラでも、ゾリアみたいなスマートな 口説かれ方ではなかったら、あからさまに嫌悪感は示すだろう。 「見た目は大人びた色気も十分あるし、立ち振る舞いだってはっとするほど上品で… だけどずいぶんまっすぐで純な子だ、で、どこまで?」 唐突な突込みに俺はまだ黙っていた。 「…まさか何も?」 「うるせーな」 図星を突かれてついこう言い返してしまう。 「え…さすがにキス位は?」 目をまん丸くして訊くな! しかしその後の奴の反応が意外なものだった。 「…王子、彼女に本気なんだな。」 今度は俺が目を真ん丸くする番だ。ゾリアの野郎ふざけたことしか言わねーって思っていたのに、真面目に反応するから、俺もつい頷いた。 「ああ。」 「想い合っているのにストイックかぁ。それも色っぽくていいぜ。」 ゾリアは微笑むと次の瞬間はっとしたように言い続けた。 「まさかさっきレオノラと話していたのは…」 「ああ。呼び出されて、まだ好きって言われて…きちんと断った。旅立つ前にもけじめ付けたのだけど、なかなか上手くいかねーよな。」 レオノラが俺を本気で好きだっていうのはずっと昔から知っていた。でも、そこはきちんと折り合いつけないとレオノラにも失礼だと思ったから、突き放すように振った。他に好きな女ができたからと理由も言った。正直困った。3年前にも同じようにはっきり言った。中途半端な優しさほど残酷なものはないと思うから。そして俺は彼女の前からいなくなった。  物理的に離れればさすがに彼女も切り替えてくれているはずだと思っていたのに。 「レオノラ、王子がいなくなってから、結構情緒不安定でさ、誰にも言ってなかったらしいけど俺はすぐに気が付いたぜ」 「…悪い。」 「いや、王子は別に悪くないさ。人の心は、特に好きになることに関してはどうしようもならないもんさ」 「…そうだけどよ…。」 あの時…魔性に襲撃されて、俺が心を病んだ時、愛でもないのにレオノラに差しのべられた手に縋ってしまったんだ。それがまずかった。 俺は溜息をついた。
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