第十一章  大魔導師と妖精と 

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 視線の先彼方にスフィーニ城が見える。遥か十数里先だ。ここは小高い丘で、ちょうど目下に城を臨む形になっている。 「一瞬でここまで移動できるなんて…。」 「移動呪文を使ったんだ。だからしっかり掴まっていろと言ったんだよ」 「そんな便利な呪文使えたんだ?」 じゃーどこにでもこの呪文で行ける筈じゃない?そう私が思ったことを即座に読み取り、リーディは答えた。 「あのな、俺が使える範囲は自分の育ったこの島の中だけだ。移動距離も魔法の力量以外にも、その行先の土地をどのくらい熟知しているかで変わってくる。」 「そうなの…。でもすごいじゃん。リーディさすが賢者の家系の末裔だわ。」 そう言った時の彼の反応は、意外にも自嘲気味なものだった。   「…俺は中途半端なんだ。大したことない」 その言葉に、なぜか悲しくなった。私の思い過ごしだといいのだけど、故郷に帰ってからの彼はほんの少しだけだけれど自信が無さげで。 「…そんなことない…そんなこと言わないでよ…。」 私はそう言いながら彼の手を握りかえす。 ―リーディらしくないじゃない。さらりと何でもこなす…あんたじゃないの? 「…とりあえず、帰ろう。掴まれ」  リーディは少し黙ってからそう言って花束を持っている方の手で私を引き寄せ、まるで私が抱きしめられる形となり、そのまま呪文を詠唱した。  そして一瞬にして、スフィーニ城の中庭に到着した。 「ほんと、あっという間だわ…。」 その瞬間、花束を渡す時に腰に回されていた彼の手がぐいっと私の身体を引き寄せる。 切なげな瞳。私はいたたまれなくなって顔を逸らしそうになったが、繋いでいた手が離されて、いつの間にか彼の左手で頤(おとがい)を固定されていた。    「!」 「…逃げるのか?」  私は顔が赤いまま首を振った。その時、遠くから足音が聞こえる。何人かの侍女たちが中廊下を通り過ぎようとしているようだ。  そう、それから頤から手を離されて、彼はそのまま立ち去ろうとした。侍女たちが通り過ぎる。   中庭のはずれのほうに着地した私たちには幸い気が付かなかったみたいだけど。 だめ、このままじゃ…と思い、私は彼を呼び止めた。 「待って…!」 リーディは立ち止まって、ゆっくり振り返る。 「…好きだから…。」 やっと言えたひと言に、リーディは屈託がない笑顔を向けてくれた。 * *  ステラ達一行は朝の光を感じられる客間がある階の食堂で朝食を摂り出発の時間までくつろいでいた。  リーディはフィレーンと二人で謁見の間の横の広間で食事をしていると聞いた皆は 気になったのもあり、まだ時間もあることを確認して、食事もそこそこに切り上げて謁見の間へ向かう。  謁見の間まではすんなり行けたので、横の廊下を歩いているとちょうどフィレーンに出会った。 「おはよう、あら、みんな御揃いでどうしたの?」 フィレーンはリーディと同じブロンドの髪を靡かせてにっこりほほ笑んだ。 「あ、フィレーン王女。」 「…リーちゃんとは、もう食事が済んだのですか?」 すかさずメイが訊く。 「ええ、もうとっくに済ませて、彼は墓地へ向かったわ」 「墓地?」 「そうよ、久しぶりだから挨拶してくるって。」 フィレーンは頷く。 「皆も、行ってみる?」  フィレーンに案内されたところはちょうど城の裏にある、きちんと手入れされた庭園だった。初夏に咲くライラックが咲き乱れ馨しい香りがする。 「ほんと、このお城はさまざまな植物がきちんと手入れされていて、その季節の花もイキイキと咲き誇っていて、癒されますね。」 コウが足音に咲いている小さな蔓日々草を愛でた。青い清楚な花である。 「魔法の力の半分は、自然の精霊の力を借りるの。だからスフィーニの信念として自然との共存があげられるのよ?」   フィレーンはめいめいにフランネルフラワーの供花を渡した。 「精霊に感謝し祈りを称え、自然と共存する…。我が修道院でもそう教えを説いています。」 キャロルも空を仰いでそう付け加えた。 ―ラナンキュラスの花畑を愛していた、リーディの妹さん。スフィーニの信念のもと育っていたのだろう。…魔性がこの国を襲わなければ…。  ステラは渡された花を抱きしめるように抱えて、思わず俯いた。  しばらく庭園を歩くと墓碑が幾つか見えてきた。大きい墓碑が3つに小さな墓碑が1つ その小さい墓碑の前にリーディがいた。 跪き、昨日ステラと一緒に摘んだラナンキュラスの花で作られた花輪を飾っていたところだった。あの後、彼は一人で編んだのだろう。  カサリと草を踏みしめる音で彼は気が付いて振り向くと、姉と仲間たちが立っていた。 「フィレーン…皆…。」 「きちんとごあいさつしたいって。」 フィレーンは微笑むと皆の方を向く。仲間たちは同時に頷いた。
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