第十一章  大魔導師と妖精と 

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 僧侶であるプリオールとキャロルが、祈祷をし始める。リーディとフィレーンが深々と二人に頭を下げた。 祈祷が終わった後、 それぞれ献花を始めた。  ―小さいのは妹さんのお墓で、レイラ・ヴィエント・スフィーニと書かれている。 大きい墓碑の二つは女王様とその王配様だ…つまりリーディやフィレーンさんのご両親…。じゃぁ、あともう一つの墓碑は?― そう思いながらステラは手持ちの花を添えて、その墓碑を見た。  墓前にはフィレーンがそっと花を供えて愛しそうに触れていた。 「…姉の夫の墓碑だ。」 リーディがそっと呟く。 「え…」 フィレーンさんは結婚していたの?確かに、ずっと薬指の指環を今でもしているけど…。 「とにもかくにも、ここには死者の霊魂はいないとは思うのだけど、気休めかもしれないが、祈りたいんだ。」  リーディはそう言って再び祈る。その背中は、自責と後悔と、強い決意が感じられた。 しかし、ステラには、少し儚くも見えたのだ。  その後、墓碑に挨拶とお祈りを終えて、私達はシルサの村に行くことになった。 「今日会う魔導師のばーさんって、リーちゃんのお姉さんの従者さんと同じくらい すごい人なんでしょう?」 メイが相変わらずはすっぱな口調で訊いたものだからか、 「あーヴィーニーは…そうだな…我が国でじぃと魔法で対等にハれるのはヴィーニーだけだろうなー。」 リーディは先ほどとはうって変わって、元の淡々とした口調でメイの質問に答える。 他の皆もなんとなくリーディの周りに集まり、 それぞれ手を取り合う。彼は呪文を詠唱した…。瞬間、私たちは白い光に包まれた。 そして一瞬にして長閑な村に着いた。 皆彼の移動呪文に感嘆の声を上げる。 何故ならもう、大魔導師のヴィーニーの家の前だったから。 「着いた。」 リーディは古びた樫の木でできた扉に付いている聖獣を模ったノッカーでノックしようとした時、 「王子、久しぶりじゃな、今日来ると待っておったぞ…。」 と、老婆の声とともに扉が開く。とんがり帽子と深い群青色のマントを羽織った小さな小さなおばあちゃんがいた。老婆っていうよりおばあちゃんだ。見ようによってはかわいらしいので、もっと怖い魔女みたいな風貌を予想していたみたいで皆拍子抜けしたらしい。ピンクの法衣がよく似合い、白髪は綺麗なウェーブが掛かっており肩まで伸びている。 「ヴィーニー。世話になる。」 「ほっほっほ。3年で良く成長しおってからに。もうすっかり少年ではなく、一人の立派な青年じゃな。」 リーディを見るや否や彼女はくしゃくしゃと目を細め破顔した。 それから、私たちは広い居間に通された。 樫の木のテーブルの上に出されたのは淹れたての薫り高いミントティ。身体が浄化されるような清涼感だ。 「要件はなんじゃ?そこの小さな神官殿に関することかな?」 「話が早い、プリオールは水の神を祀るリンデルの神官なんだ。今回魔法力の鍛錬を受けたいと。」 「老師様、初にお目にかかります。カナロア神の守り人のプリオールと申します。」 プリオールが厳かに挨拶をして事情を説明するとヴィーニーは少し考えて承諾はした。 「あいわかった、ただし…」 「条件だろ?」 リーディがしかめっ面で先手を切る。 「ほっほっほ。さすがに立派な青年の王子からのキスは結構じゃよ。個人的にはウェルカムじゃが、たかがキスでも今の王子には…」 ヴィーニー老師は含むような言い方で片眉を上げてちらりと私を一瞥した気がしたけど…。 「じゃぁ、何だ?」 「まずは、この勇者のお嬢さんの魔力を安定させてやりたくてな。ゴードンの奴目が殊勝に頼んで来おったんじゃ。」 ―ゴードン老師が?私を? ヴィーニーは小さな手を私に翳すと、少し目を伏せる。 「マレフィックスだから仕方ないにしても彼女は十分勇者としての魔法の素質はあるが、 身体がついてゆかんじゃろう?」 「強い呪文を使うと、倦怠感が来ます。下手すると半日以上寝ていないと身体が持ちません」 「じゃろうな…。なのでその神官殿と勇者殿を預からせてもらうかわりにじゃ…」 皆は固唾を飲んだ。 「妖精の村に滋養薬をもらいに行ってほしいんじゃがな?」 「妖精の村??」 …妖精の村って。 「妖精?そんなのって実際にいるの?」 メイがちょっと茶化したような口調で言う。 「ほっほっほ。妖精は別の世界にいるんじゃよ。人間界・魔界・そして妖精の世界と。 ただな…。妖精の村は簡単には入れぬ、神秘的な力が強いものじゃないと見えぬしな。 しかも数年前に魔性が妖精の城を襲ったのじゃ。それからますます妖精の警戒が強くなっている。」 「じゃ、とりあえず俺が取りに行けばいいんだろ?」 リーディは話が早いといった風に答えたが、ヴィーニーは静かに静止した。 「王子はならぬ」 「どうしてだ?」 リーディの急かすような口調を遮るかのようにヴィーニーは今度はぴしゃりと一喝する。 「王子の心はまだ、復讐心が凌駕している。」 「!」 「妖精はそう言った負の感情に敏感なのだ。王子のそれは随分減ったと思うのじゃが まだ完全には消えておらぬ…。」 「…。」 「それにリーディ、エターナル・メタルの洞窟に赴くのに君の力が必要なんだ。」 コウが珍しく強気な口調で言う。 「じゃーリーちゃんが無理だとして、ステラはここに残るし、私はダメでコウもダメなら…」 「いかにも、そこのシスターがワシは適任だと思うのじゃ。」 ヴィーニーはキャロルのほうに身体を向けにっこり笑った。
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