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フルララは、ガトラからカップに注がれた干し肉と山草のスープを受け取って、ゆっくりと喉に流し込む。
「美味しい…」
「フルララ! 見てみろ。」
少し興奮気味で洞窟の奥を指差すガトラが何を伝えたいのか、自身の瞳に映る光ですべてを理解したフルララは、まだ疲れが抜けていない足腰を奮い立たせて洞窟の奥を見る。
「山脈を抜ける場所だったのですか?」
「いや、それはまだ判らん。だが、この時間に光が差し込むことは、その可能性は大いにある。なんにしても食事を終えたら、確かめに行こうか。」
「はい。」と力強く返事を返すフルララは、急いでスープを飲み干していた。
洞窟を進んで出口に出たガトラ達は、壮大な景色に見惚れていた。
周囲を同じような山脈で囲まれた大地の真ん中に大きな高原が広がり、幾本の川がその高原の一箇所に集まって大きな湖を作っている。
その高原の真ん中辺りに小さな遺跡のような物も見えていた。
「ここが北の大地なのですね。」
「ああ、間違いなさそうだ。それでどうする?」
「あの、高原の真ん中にある遺跡みたいなところまで1日で行けますか?」
「そうだな…馬がいれば行けそうだが、今の俺達では2日はかかるな。」
洞窟から、距離にして50kmほど。ほぼ直線で下って行ったとしても、体力的に限界だった彼らには1日で辿りつくには無理があった。
フルララは、諦めるしかない事に気持ちの整理がつかなかった。
ここで無理をすれば危険な状況になることは明白で、今回はこの洞窟を見つけただけで喜び、来年にまた来ればいい事は判っている。
だけど目の前に見える、手が届きそうな距離にある目的地から目を逸らすことが出来なかった。
「オリファ後ろ!」
突然のガトラの声と同時に、魔獣が最後尾にいたオリファに襲い掛かっていた。
咄嗟に盾を構えたオリファは吹き飛ばされて、坂の下に転げ倒れる。
そして、洞窟の出口を背にした体長3メートルほどの犬型の魔獣が、次の獲物に定めたフルラージュを狙って、鋭い牙で噛み付き攻撃を繰り出す。
それを、ガトラが大剣で防ぐが、足場の悪い岩肌で踏ん張りが利かず、押し返す事が出来なかった。
「ファイヤショット!」
フルラージュは、小さな炎の玉を魔獣に向けて放つ。
魔獣を引き離すための牽制攻撃だった。
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