魔王、勇者と転移する。

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 その場で「ぽよんぽよん」と音をたてながら跳ねる姿に、俺は諦めという無力感に襲われていた。  まあ、どうあがいても変えようが無い事実だから、受け入れるしかないが…  あいつに比べたら、全然マシなんだよな…  絨毯の上で、裸で寝ている赤子に俺は視線を移す。  ふわふわの金髪に小さな鼻と口。目は閉じて、まつげが綺麗な弧を描いている。  そして、丸く整った輪郭とふっくらとした頬が、可愛さを増していた。  このままだと、寒そうだし、何か探すか。  さすがに赤子用の服なんて持ってなかった俺は、数十年ごとの気分転換で自室の家具をごっそり倉庫に掘り込んている物の中から、毛布を取り出す。  撥水性・保温性・肌触り感、すべてにおいて最高品質の『ブリフィンの毛』の毛布だ。  俺は、赤子の様子を見る為に傍まで近付き、取り出した毛布を赤子の体に巻く。  毛布が心地良かったのか、すやすやと眠る赤子が、嬉しそうに笑みを浮かべたように見えた。  さて、こいつが起きるまでに、寝床の準備をしないとな。  俺達がいる場所は、屋根が半分以上落ち、壁もあちこち崩れているから、この場所を直すよりは他の場所を探した方が良さそうだろうと思った俺は、魔力による索敵を開始する。  半径1kmの索敵の結果、遺跡の大きさは建物の部分で縦200メートルほど・横100メートルほどの長方形型で、地下2階・地上2階。  建物周りの、石材で整地された区画は、建物を中心に約500メートル四方の正方形で、ほぼ崩れてはいるが、2メートルほどの外壁があった。  そして俺は、建物の中で地上2階のほぼ中心にある部屋に目星を付けた。  縦・横が6メートル、高さが4メートルほどの部屋。  そこは石の扉でもあるのだろうか、密閉された空間だったが、天井に明かり窓用と思われる水晶壁が埋め込まれている。そしてその部屋の中心に魔力を出している何かがあった。  特別な部屋かもしれないと俺は思った。  地下にも部屋として使えそうな場所は数箇所ありそうだったが、崩れ落ちる心配がある地下で赤子を育てるのは心配だから、それは最後の選択とした。  そして、気になることが一つある。  この遺跡を囲う外壁の内側には、生命反応が無い事だった。  虫一匹すら居ない。  俺は、結界が施されていると推測した。
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