魔王、勇者と転移する。

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 山を下り始めてから少し経った頃、右手の森の奥で木が折れたり裂けたりしたような音が、微かに聞こえてくる。  俺は、魔力感知で索敵をかける。  この魔力だと…中型の魔獣辺りか。それと…人族が4人。    俺は悩んだ。  リリアナは10歳の『資質の鑑定』の時期が過ぎるまで、この地で育てるつもりだが、この世界の今の状況が判らない、無知の状態でいることの不安も多少あったのだ。  だからと言って、魔物の俺が人族の前に出て、こっちの質問に答えてくれる保障なんてなく、面倒なことになるだけかもしれないと悟った俺は、遺跡に戻ることを選ぶ。 《パパ! あっちになにかいるよ。》  距離にして1kmほど離れている人族を、リリアナは見つけたのか? 《リリアナ、見えるのか?》 《ううん。こえがきこえた。》  俺には聞こえなかったが、リリアナがそう答えた後、確かに悲鳴のような叫び声が俺にも届いた。 《助けに行くぞ。ちょっと早くなるから、つかまってるんだぞ。》  リリアナが不安な顔を見せて俺を頼ってきたんだ。それを叶えるのが父親だよな。  俺の体をぎゅっと掴んだリリアナの手を感じながら、俺は速度を上げて人族と魔獣のいる場所に向かった。
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