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中心を握りしめたままの桐島の手が、重なった黒沢の手の動きに寄って激しく責め立てられた。無意識に逃れようと右へ身体が反ると、今度は右手の重ねられた二本の中指が桐島の内部へと押し込まれた。ピンで留められた蝶のように、桐島は硬直した。 「やあ……っ! ああ……っ!」 内部で、自身の指が黒沢の指に動かされ、桐島は身体をのけ反らせた。黒沢に強く寄り掛かり、桐島はいつになく高い声を上げてしまっていた。黒沢に、そして、自身の手に犯されている。濃密な愛撫が、桐島の理性を剥ぎ取っていく。 「ああ……っ……ん……う……」 「熱いな……さすがに」 「や……」 「もっと、だろ? 締めつけて、離さないくせに」 「……やあ……っ!」 内部を掻き回されて、桐島は喉が熱く潤んだ。感極まって、意識せずに、涙を流していた。こめかみが脈打つ。もう、限界だった。 「も……だめ……」 それを合図に、黒沢の中心を扱く手の動きが早くなった。内側の桐島の手も、黒沢の動きを借りずとも自身を激しく責め立てていた。 「あう……っ!」 身体が、跳ねた。そして、充足感。桐島は浅い呼吸のまま、黒沢の胸に背を預けた。いつの間にか、全身にうっすらと汗をかいている。先程まで少し暑いくらいだった空調が、今は少し冷えて感じられた。 「……っ……」 ぴんと張りつめていた股と、ふくらはぎの筋肉が弛緩して、やけにだるい。流れ出た自身の体液が、とろりと奥の方へ流れていった。 「……あ……」 耳の付け根に軽いキスが降ってくる。うなじを這う唇が、また、とんでもないことを言う。 「上に、乗って」 「……え……?」 「自分から」 服を着たままの黒沢が、ベッドに仰向けになった。また、視線が絡み合う。耐えられない。桐島は黒沢の腰に跨がると、黒沢自身を支えながら、ゆっくりと腰を下ろしていった。 「……う……ん……」 熱く、硬いそれを飲み込みながら、桐島は目を閉じた。目を閉じてしまうと、その時の行為に深く没頭してしまうので、あまり好きではなかったのだが、黒沢と視線を合わせるぐらいならこの方がいくらかマシだった。 「っあ……あ」 たいして時間をかけずに、桐島は黒沢を飲み込んだ。背骨が、きしむように痛んだ。 「動いて」 「……はい……」 「目を開けて。俺を見ろ」 「……あ……」 乱れた前髪の隙間から、目を細めながら黒沢を見る。苦しいふりをして、時々、瞼を閉じてみる。反則でも何でもいい。自分から、腰を、全身を蠢かせる。不意に、黒沢が起き上がった。驚いて、桐島は動きを止めてしまった。 「何……か……」 間近に見る黒沢の瞳は黒々と光り、とても綺麗だ。窺うように息を潜めた桐島に、また言う。 「向こうを向いて。……このままで」 「え……」 混乱しながらも、桐島は黒沢を身体に受け入れたままで、そろそろと身体の向きを変えた。両手を少しずつずらしながら、顔を上げると、桐島は指を唇に当てた。 「……や……」 目の前には、鏡があった。二人の痴態を余すところなく、映し出している。背を起こすと、黒沢の胸に抱き込まれた。開いた足は、黒沢が膝を立て、広げるほどに、閉じることを阻まれてあられもないほどにその部分を露にした。息詰まる姿態に、桐島は身をすくませた。 「……んっ……」 「シャツを脱いで……」 「あっ……」 腕から引き抜かれて、桐島は全裸になった。黒沢はネクタイを緩めただけで、肌を晒そうとはしなかった。胸に、首筋に苦しいほどに指が食い込んでくる。内部に感じる黒沢自身も、まるで凶器のように桐島を息苦しくさせた。 「は……っ……あ……っ!」 黒沢の動きが、激しくなる。深く呑み込んでいる部分が、熱い。揺らされる度に、目の前が霞む。のけ反った喉に、黒沢の舌が這う。乱れる髪、目に染みる汗。黒沢の膝に爪を立てそうになるのを、やっとの思いで堪えていた。 ──こんなに……まだ……好き。 桐島は高められていく身体を、心を今更ながらに確認する。誰と寝ても、こんなふうに熱くなることはなかった。忘れたことなどない。あれから六年たった今でも、黒沢のことしか考えられない自分を哀れんだ。決して、逢うことはないと思っていたのに。今、誰よりも近くにいて、自分を抱いている。幸せだ、と思う。そして別れを思うと、また今までの孤独よりも何倍にもなる痛みに、桐島は泣いた。 「……っ……あ……んっ……!」 首筋にかかる黒沢の呼吸も、少し弾んでいる。耳元に囁かれる言葉。桐島は夢のようにその言葉を聞いた。 「……いいか……?」 「……ん……い……いい……っ」 「痛むだろう……?」 「…………?」 桐島は瞼を少し開いた。振り返ろうとしたが、鏡の方を無理矢理向かされた。 「どうして……こんな抱き方をされるのか……わかるな?」 「え……あ、あ……っ」 「おまえには、わかるだろう……?」 桐島は息を飲んだ。いったい、何を黒沢は言っているのだろう。そう思った瞬間、桐島は急激に自身が高まるのを感じた。 「……敦司」 「…………!」 黒沢の口から漏れた名は、紛れもない、自分の……。 「あっ、あ、あ! ……や……ああっ……!」 逃れようと目茶苦茶に身体を捩ったのが、かえって、互いを極みへと押し上げる結果となった。 「敦司……!」 「や……ああ……っ! ……黒沢……っ! ああ!」 がくん、と桐島が前へ倒れそうになるのを、黒沢の逞しい両腕が引き止めて、胸へともたれさせた。呼吸が数秒、止まる。それから、胸に染みるほどに乾いた空気を吸い込んでみた。背後の黒沢の胸も、かなり弾んでいる。桐島の目から、涙が零れ落ちた。次から次へと込み上げてくる熱い痛みに、微かな嗚咽が漏れた。 「桐島」 「……うん」 桐島をベッドに仰向けに寝させて、自身の服をすべて取り去ると覆い被さった。口づけをすると、桐島は堪えきれずに、片手で瞼を覆った。 「隠すなよ」 「……うん」 「かわいらしく、泣きやがって」 「……うん……」 頬に、耳に、首筋に繰り返される軽いキスに、桐島は唇を震わせながら、尋ねた。 「……俺だって、知ってて?」 「決まってるだろ。六年前からの緻密な計画だ」 「……黒沢が?」 なぜ、そんなことまで、と言おうとする唇を塞ぐ。わかっていることを聞くな、とばかりに。少し乱暴なキスになった。 「……全部、知ってるのに……痛っ……」 「ああ、全部知ってるよ、おまえのことなら。調べたからな」 悪びれない口調に、桐島は苦笑した。 「……副社長就任、おめでとう」 「……桐島」 桐島には驚かされることばかりだ。そんなことを知っていたなんて。ますますいい気に拍車がかかってしまいそうだ。 「……ずっと、好きだったから。きっと、黒沢が、俺を知る以前から」 「……桐島」 気が抜ける。緊張し続けていた肩の力を抜くと、黒沢は涙と汗で張りついた色素の薄い髪を、桐島の頬から撫で落とした。 「……そんなに簡単に言うな……」 「……どうして……?」 「こんな抱き方をして……大人げないって、……思ってるだろう?」 「全然……」 「嘘つけ」 「嘘つきは、黒沢の方でしょう。初めての時だって……」 「よく覚えてるな」 「忘れないよ……忘れられるわけないよ……」 「桐島」 「……あ……っ!」 濡れた、桐島の肌を抱きしめて、黒沢は押し入った。力いっぱい押し上げられて、桐島は呼吸をすることも忘れて身体を強張らせた。 「息、吐いて」 「……っ……あ……」 桐島の指が、黒沢の背を這う。揺らされる度に汗ですべる指を、必死になって絡ませてくる。新たな涙が、一筋、頬に伝った。それを唇で拭ってやる。 「おまえは……俺のものだよ……」 「どうして……そういう言い方しかしないんだよ……」 「そういうって……」 「好きだって、……言ってくれよ……」 「言ったら、それを宝物みたいに抱き締めて、俺から離れても生きていけるなんて、女みたいなこと考えてるんだろう?」 「……あ!」 激しく腰を突かれて、桐島は首を振った。 「俺は、放すつもりはないからな。もう」 「……黒沢……」 「何のために、六年もの間、おまえが客に抱かれてるのを知ってて、おまえに逢わなかったのか……。俺はな、おまえを自由にできる金も、束縛できる金も、持ってるんだよ」 息が、弾む。桐島の無意識の媚態に、胸が痛む。 「そんな価値がない、なんて、言わせない。俺を、こんなにしやがって。それだけで十分俺は、おまえに仕返ししても、いい立場なんだからな……」 「黒沢……あ、……っだめ……っ!」 「選択権をやる。俺が選ぶも同じ、だけどな」 「あ、ああ、……っあ!」 桐島は聞こえないふりをしているのか、それとも、本当に聞こえていないのか。快楽に素直に身を委ねて、黒沢の腕の中で身悶えた。 「黙って俺のものになれ。……なにも考えずに。いいな、……敦司」 「や、あ、……あ、ああっ……!」 腕の中の背がしなる。黒沢が達したのとほぼ同時に、桐島も達していた。答える間もなく、桐島は気を失った。
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