168時間前

4/4
123人が本棚に入れています
本棚に追加
/214ページ
 残り時間わずか。  ガイは振り返ると走り出す。手首に巻かれた小型の装置を駆使し、カプセルを呼び寄せた。  目の前に突如現れた卵形カプセルに飛び乗り、素早くコクピットに身を滑らせる。  間に合うか?  操作に時間はかからない。ただ、作動するのに、場所によってはもたつく場合がある。  背後で空間が震えた。  しまった。始まった。  シリコンバレーの上空に黒い雲状の何かが広がっていく。モニターから見るそれは、禍々しい地獄への扉のようにさえ見えた。  急いでくれ。  ガイは胸の内で叫んだ。あれに呑みこまれたら、このカプセルでも脱出は不可能だ。  急げっ!   叫びとともに、そんなことは無駄だと知りながらもコクピットを叩いた。  カプセルが震えた。  間に合ったか?  カプセルの震えが大きくなる。だが、同時に、ものすごい力で引き寄せられつつあった。あの暗黒にだ。  まずい。くそっ、頼む。急いでくれ。  装置相手に哀願した。それに応えてくれたのか、カプセルはヒュン、という音ともに別の空間へ飛んだ。  よし、とホッとしたのもつかの間、コクピットのあちこちから警報音が鳴り始めた。そして、ガクガクと大きく揺れる。  だめだ。壊れた。あとは運を天に任せるしかない。  ガイは目を閉じた。
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!