124人が本棚に入れています
本棚に追加
/214ページ
ネクタイを締める手が止まった。ふと、暗い思いがよぎる。
もしこのまま、どこにも就職が決まらなきゃ、お先真っ暗だしな。それならいっそのこと、爆発とやらに巻き込まれて一瞬で消えて無くなった方がマシかな?
何だか、ようやく起き上がったはずの体を脱力感が襲ってきた。
いかん、いかん。ネガティブ・シンキングは禁物だって、誰かが言ってたな。ドラッガーだっけ? とにかく、面接がんばろ。
テレビにもう一度視線を向ける。気を抜いていて、感覚を抑えるのを忘れた。アナウンサーが薄い灰色に、アシスタントの女性がきらきらしたピンク色に包まれていた。
やべっ! 慌てて感覚を抑える。画面の2人が普通に戻る。
こんな感覚、あっても何の足しにもならないのにな……。
ようやくネクタイを締め終えると、冷蔵庫を開け、オレンジジュースを飲む。
食欲はない。深夜までネットで動画だのオカルトサイトだのをいろいろ見ていて、寝不足なのだ。まだビールとスナックが腹の中で混ざり合っている。
スマホで昔の写真を見た。だが、すぐに消す。
馬鹿……。何やってんだ、俺?
高杉沙羅――以前つき合っていた女性だった。その画像を未だに消去できず、たまに見返してしまう。そんな自分に嫌気がさしてきた。
溜息をつき、首を振る。そして気を引き締め、一平は 部屋を出た。
陽差しが眩しくて、何故だか申し訳なくなった。
最初のコメントを投稿しよう!