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「ガイ……」
ヘッドセットにクリスの声が響いた。その声音は、ガイの胸の奥を一瞬で締めつけた。こんなに弱々しい彼の声は初めて聞いた。
「クリス、どうした?」
声が尖っていた。気づかないうちに焦りが口から迸っている。
「失敗だ。やられた。おまえだけでも逃げてくれ」
クリスが嗤っている。
「どこだ? 今行く」
「だめだ。来るな。もう時間がない。あと3分だ。おまえは急いでこの場を離れろ」
「おまえをおいては行けない」
「任務を忘れるな」
クリスの声に、急に力強さが戻った。ガイは思わず息を呑む。
「連中は4体を送り込んだ。まだ1体残っている。次の狙いはジャパンだ。ヨコハマだ。今度こそ、防いでくれ。おまえ1人になっちまったが、ジャパンの政府に協力を依頼しろ。もう、なりふりを構っている時じゃない」
目を閉じた。仲間達の顔が浮かぶ。拳を握りしめる。
「おまえまで死んだら全滅だ。俺たちの負けだ。だが、おまえがやり遂げれば、負けっ放しではなくなる。頼んだぞ、ガイ」
最後は消え入るような声になっていた。おそらく力を振り絞って話していたのだろう。
きらびやかに光り輝く科学技術都市、シリコンバレーを見上げた。後退る。右肩の傷が疼き始め、そして、次第に痛みが強まっていく。
それは、内なる思いの高まりに呼応したようでもあった。
わかったよ、クリス。
直前まで死を覚悟していた。
死、という表現と実際は違うのかもしれないが、消え去ることも仕方ないと諦めていた。だが、自分の諦めは、ここまで一緒に戦ってきた8人の最後の望みさえ絶ちきってしまうことになる。
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