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「何よ、それ?」
一平に視線が来たが、自分で説明するのは気がひけた。雪乃も追求しては来ない。そのかわりに、彼女の鋭い視線は大河内に向けられた。
大河内は少しも臆することなく、優秀な科学者か何かのように説明を始める。
「共感覚とは、ある感覚器への刺激によって本来知覚される感覚だけでなく他の種類の感覚が知覚される現象。一部の人にみられる特殊な知覚現象をいう。 例えば、文字に音を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりする。人を見て色を感じる共感覚は、昔からオカルトの分野で『オーラ』と呼ばれていたものと共通するケースがあるという説は多い。来生君の場合は、色を見る共感覚を持つ人の中でも特に優れた力のようで、感じる色が見る対象ごとにまったく違い、同じものがないというじゃないか。同じ赤でも数十以上の種類があるというが、その違いもわかるらしい」
そうだね? とでも言うように、大河内が一平を見た。何も応えなかったが、大河内は構わず続けた。
「申し訳ないが、君の情報は以前から得ていた。特別な能力を持つ者については、ある程度把握している。必要が生じた場合協力を仰ぐためだ」
「俺にはいつも監視がついていたってことですか? こんなどうでもいいような感覚のために?」
「誤解しないでほしい。監視などはしていない。君の場合は子供の頃ご両親が心配して医師に相談に行っているね。さらに、大学生になってからは、個人的に心療内科に相談もしている。人や物を見るとその人、物の特有の色を感じるという君は、その力をもてあましていたようだ。心療内科の医師は大学の心理学研究所の協力を仰ぎ、君のその共感覚について調べていたが、実験の対象となるのを嫌った君は、次第に距離を置くようになった。状態の定期報告のみ続けているはずだ。そういったことは情報として入ってくる。だが、危険人物でもない人間に監視などはつけない。それは保証するし、今後もないと約束する」
「監視はしないけど、俺が今無職でふらふらしているとか、把握はしていたわけですね」
気分が悪くなった。公安――危険思想などを持ちそうな人間を監視したり状況把握しておく部署。それのある程度の対象人物になっていたわけだ。
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