冤罪と婚約破棄を押し付けられたようです。

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「…そこまでだ、ファルト」 「アストラル…?君が何故ここに」 ファルト王太子殿下を呼び捨てにし、そしてファルト王太子殿下も同様に名前を返された人物が視界に入った時。 私の心臓は、一瞬、動きを止めた。 その人物は――アストラルと呼ばれた彼は、私の想い人であったからだ。 「ど、うして…。アスト様…?」 「ごめんね、ソルティア。ファミルラ男爵家の次男、アスト・ファミルラと名乗っていたけれど、僕の本名は、アストラル・ヴィクトリア。婚約者候補の素顔を知るために、身分を変えて近づいていたんだ。…国の考え方とはいえ、嘘をついたこと、本当に申し訳ない」 「わ、私なんかに謝罪だなんてそんな畏れ多いこと…!私こそ、存じ上げなかったとはいえ数々の無礼、大変申し訳ございません…!」 本名を聞き、慌てて頭を深々と下げる。 謝らないでいいよ、といつものような優しい声で言うけれど、そんなわけにはいかない。 アストラル・ヴィクトリア――その名は、隣国の王太子殿下としてあまりにも有名である。 未だ学院で学びを深めている年齢でありながら、ヴィクトリア国王陛下がその優秀さを認め、即位の日がもう間もなくだと聞いている。 なんでも、選定中の婚約者候補の中から先日婚約者が決まり、その方との婚姻が成立次第、即位なのだとか。 …婚約者といえば、先程謝られたという畏れ多さのあまり問い忘れたことがある。 「…質問をお許しいただけますか?」 頭は深々と下げたままそう問えば、彼は頭を上げるならいいよ、と返す。 致し方なく顔を上げれば、綺麗なアメジスト色の瞳に視線を絡め取られた。 途端に顔が赤く染まったのがわかる。 「あの、婚約者候補というのは…」 「君のことだよ、ソルティア。正しくは、婚約者、だけど」
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