4. ユメマワシの夜

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「いいえ。わたしたちは天使じゃない。あなたたちが考える天使のような存在ではない。まあ、ある瞬間は天使かもしれないし、次の瞬間には悪魔かもしれない、あなたたちの尺度で見るとね。人間がわたしたちをなんと呼ぼうとそれはあなたたちの勝手だわ」 「見た目にはあなたたちも人間にしか見えないわ……」 「見た目だけじゃない。わたしたちはほとんど人間よ。歳をとらないということ以外はね。あとは少しものの感じ方とか考え方が違うだけ。空を飛んだりしないもの」 「あなたたちは死なないの?」 「それはわたしにもわからない。知っている仲間の中に死んでしまったという人はひとりもいないし。まあ、もう何十年、なかには何世紀も会ってない人もいるわけだし、お互い居場所も知らないわけだから、死んでたとしても、それを知りようもないのだけど……。どうなのかな。わたしたちもいつかは死ぬのかしら。ユウカさんはどう思う?」 「え……、そりゃ、やっぱり、いずれは死ぬんじゃないかな。生まれたものはいつか死ぬのが定めだもの」 「でも、わたしたちは正直、生まれたのかどうかすら定かではないの。死んでしまった仲間がいないのと同じく、子供を産んだという仲間もいないし」 「そうなの? でも、今、生きてるなら、いつかは死ぬんだと思う。だって生きてるものは死ぬんでしょ? そうでなければ、今、生きているということを疑わなくてはならないことになるわ」 「そうか、たしかにそうよねぇ。わたしたちがいつか死ぬのかという問いは、わたしたちが、今、生きているのかどうか、というのと等価の問いなわけね。まあ、その問いにしてもそれはそれで哲学的な命題ではあるけれど……」  たしかにリセは見た目通りの年齢ではないな、とユウカは思った。小学生がこんなセリフを吐くわけはない。……しかし、なぜだか目を開けてるのがツラい。でも寝てしまったらリセへの質問タイムは終わってしまう……。 「じゃあ、次の質問。ソラヨミについて教えて。リセさんは、その、会ったことがあるのかしら、ソラヨミに……」 「ええ、もちろん。ソラヨミはね、おそらくもっとも古くからいる同胞だと言われている。つまり、同胞のなかで最年長、ってことね」 「どんな人なの? あ、ちょっと待って。三人のなかで一番、年下に見えるリセさんが実は最年長なんでしょ、ということは、あなたたちの同胞のなかで最年長のソラヨミは、もしかして、見た目には赤ん坊だとか?」 「あはは、面白いわねぇ、その発想。でも残念ながらハズレよ。ソラヨミはね、見た目としてはただの中年男性なの。でも、わたしたちのなかでは、唯一、特殊な人」 「特殊?」 「わたしたちは、みんな、自分らが何者なのか、ちゃんとわかっている。そして、日々、自分たちの役割を果たしている。でもソラヨミは違う。彼は自分が誰だか、わかっていないの。何も知らずに普通の人間社会のなかで人間として暮らしている。なんでだと思う?」 「え、うーん、まったく想像もつかないけど……」 「ソラヨミの能力についてはダイが説明したよね? 彼はあらゆる『気』を読み取ることができる。過去から未来に渡って。つまり彼にはあらゆることがわかってしまうのよ。それがどういう感覚なのか、わたしにも理解できないけれど――」 「……」 「なにもかもが見えてしまう。そういうことに精神が耐えられると思う? 無理よね、たとえわたしたちのような存在であっても。その状態が続けば、間違いなく、その精神は常軌を逸してしまう。つまり発狂してしまうわけ」 「……」 「だから、ソラヨミの能力を解放した後は、必ず、再びその能力を封印すると共に彼の記憶をも封じ込めて、彼を人間社会に戻す、という作業をしないとならない」 「それって、口で言うほど簡単じゃなさそうね」 「ええ、同胞であっても、ソラヨミの能力を封じたり記憶を消したりという作業は誰でもできるわけじゃない。今回はわたしがそれをすることになる。モルトやダイには、それはできないからね。ま、彼らにはそれぞれ、彼らじゃなきゃできない役割があるんだけど――」
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