7 N.Y.

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「あんた、まだ若いんだから諦めちゃだめよ」  ベアトリスは祐作の額の絆創膏を交換する。彼女から煙草の匂いがして、祐作は少しほっとする。ニコチンが痛みを緩和してくれる気がするのだ。 「食い逃げするな、俺だったら」  祐作が言うと、彼女は額から目を下げて、祐作の目を見た。 「食い逃げ?」 「財布がなかったら、逃げる」  ベアトリスはふふっと笑って、絆創膏を丁寧に貼った。 「人を殺したんだって?」彼女は言った。「噂だけど。人を殺した人なら、食い逃げは大した犯罪じゃないかもしれないけど、一般庶民にとっては大きな犯罪よ。私にはできないわ」  祐作は彼女の指がまぶたに降りて来たので目を閉じた。 「だから俺だったら、って言いましたよ」 「そうね」ベアトリスは軽く答えた。「人を殺したことは否定しないの?」  祐作は目を開いた。彼女と目が合う。 「しません」  したってしょうがない。あれだけ毎日警察が入れ替わりやってきて、怒鳴ったりなだめたり、病院中に聞こえる声で祐作を殺人鬼呼ばわりしたのだから。 「そう」ベアトリスは作業に集中した。  最後に点滴を調べて、彼女は祐作を見た。 「何か欲しいものはない? コーヒーとか果物とか。毎日病院じゃつまらないでしょ?」  祐作は少し考えた。「じゃぁ、煙草を一本」  ベアトリスは微笑んだ。「貧血気味の患者に煙草は禁物」  祐作はドアを閉める彼女を見送った。  十分後、彼女がシーツ交換よとやって来て、祐作を車いすに移し、煙草を一本くれたときは少し驚いた。  それから、彼女は窓際に車いすを寄せ、下のセントラルパークの説明をしてくれた。ほら、あの辺りがストロベリーフィールズよ、と彼女が教えてくれたが、祐作はビートルズを知らなかった。すると彼女は信じられないという顔をして、ビートルズについて詳しく教えてくれた。  その翌日には、ポータブルCDプレイヤーを貸してくれ、ビートルズを聞くようにと言った。  そして次の日、彼が聞いてないと知ると、怒った。
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