新・日本民話 吉三

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神田錦町、お茶問屋相模屋が一人娘『お雪』神田界隈では評判の看板娘。 お雪、歳頃にて、縁談が降るが如く、大店若旦那、万石高のお武家様、挙句には聞きおぼし遠き上方からでさえ、縁談話しが来ていた。 お雪は、その様な話しを一向に気にかけず、日々習い事などで費やして居る始末。 父親、母親、その様なお雪を見て、少々不安なりして、もしや、お雪に好いた者など・・・と考え、お雪を別室に呼びて、聞きおぼしが、お雪は首を横に降るばかり也。 さても、さても、困りし父親、母親! 「このまま二十歳を越せば、小年増に成りしが、果てさてと」と両親困り頭を抱えるが毎日の日課との様な事と相成った。 ところが、お雪心に決めた者有りし、秘めた恋なら両親に打ち明け祝言と相成るも、それが出来ない恋心。 10年前にて、大旦那と大番頭が信州にて、茶畑を視察しに出向きが、茶畑小作人、五郎吉が大旦那の前にて土下座して『何卒、せがれの吉左を奉公にと』頼まれし、大旦那は貧農五郎吉が願いを聞き留め、8歳の吉左を江戸へ連れて行き、奉公させたる如し。 吉左は丁稚として、相模屋に奉公したが、周りの丁稚や手代からは、捨てられた子供との事にて『捨吉』と呼ばれし。 その捨吉も早10とハになりしてが、その様子役者と間違えられるくらいの優男、しかして未だ末端の丁稚頭。 捨吉、日課の庭掃除最中にいつもの様に、ソロリと襖が開き、手招きする細き手。 捨吉、辺りを見渡し、その手の部屋に入りますれば、お雪が待ち兼ねて居る。 『嗚呼、吉左、恋しや、逢いたや』とお雪が言えば、捨吉とて『お嬢様、お顔を見ねばこの吉左、深き眠りには付けませぬ』と答えし。 『しかして、お嬢様と丁稚の私、余りにも身分が違い過ぎます・・・お嬢様・・・この吉左をどうか、お忘れくだされまし!』と宣えば! 『その様な事が出来れば、当の昔に諦めていたでしょう、それが日が募る度に恋しく成りし、嗚呼この切ない気持ち、吉左にはわかっておらぬ』 『背に羽が有れば、吉左と遠く迄飛び、夫婦となりましよう』と答えるお雪。 『お嬢様・・・この吉左とて、同じ思い』 『誠に吉左?』 『この場で嘘方便など、持っての他』 『ならば、ならば、この私を連れて逃げておくれでないか!』 『それは、恩、有る大旦那様を裏切る始末、これ如何にとて、そればかりは相成りませぬ』 『このままでは、ゆくゆくは縁談にて意に添わぬ相手と夫婦になりし・・・吉左、』 『どうか、どうか、この、お雪を連れて逃げておくれ!』 悩みに悩んだ捨吉! 今月末には、大旦那様大番頭手代頭が揃って下見に相模に行く月。 捨吉この機会を逃さば、二度とこの様な事は出来ぬと考えし! 捨吉、お雪にソット伝えしが、お湯は涙を流して喜びし、お雪、事前に旅手形を大枚叩来て用意せば、いざ月末迄の日時を今か今かと待ちわび成りし。 当月当夜、暮れ六つ過ぎし、亥ノ刻時に、お雪の部屋を叩く音! お雪待ちわびて吉左に抱かれし契りを交わし、いざ逃げ逢瀬と二人して神田から奥州街道に至る千住を抜けて、そのまま奥州街道をひた走りたる事き成り。 日本橋から数えし七つめ、武蔵国、栗橋宿にて草鞋を抜きし二人の若き夫婦! 『嗚呼、まるで夢うつつが如し、吉左様との夫婦旅!』 『お嬢様・・・』 『イヤじゃ、イヤじゃ、お嬢様とはこれ如何に、契りを交わしたる夫婦なれば、お雪と呼んでくださいませ、旦那様』 『・・・お雪』 『嗚呼、嬉しや、嬉しや、旦那様』 お雪は店から持って来た金銭、二百両を吉左に預けし。 その頃相模屋ではお雪と捨吉が手に手を合わせての駆け落ち算段、町役に聴けば、お茶の視察と手形を発行せりが、大旦那は怒り至急追ってを出したるが如し。 早馬は奥州街道を一目散に駆け巡り、宿場毎に手配書を出したり。 奥州街道十と四番目、都賀郡、小金井宿を五里先の街道にて、二人を見つけたり。 『最早遺憾ぬ!』と吉左が問えば、お雪も吉左と共にと心を決めた。 『お雪・・・』 『旦那様・・』 お互い小刃を出して共に付き通した。 追っては寸前での心中に、吉左を街道筋に放って、お雪の亡骸だけを連れて帰りしが、神田に着いて、変わり果てた、お雪を両親は泣く泣く迎え、葬いを成し遂げた。 一方、お雪の女力では吉左の息を止める事は出来なんだ。 小刀は吉左の胸をそれて、新の臓を交わして居た。 息を吹き返した、吉左は江戸に戻り、お雪の死を知り嘆き悲しみ、落ちる所迄陥った。 十と数年が経ち、江戸では三人吉三の夜盗が蔓延っていた。 お坊吉三、和尚吉三、そしてお嬢吉三。 お嬢吉三、事、生き残った吉左成りし。 三人吉三はお嬢吉三の金銭百両での仲間割れにて、三尺高く首を晒されてたのは、歌舞伎・『三人吉三廓初買』にてお馴染みと相成った。 ~お終い~
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