【獣人攻め】抱擁するは許されざる愛

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 罰、などとは思いたくない。  そもそも獣人どもを屠ったことは悪ですらない。奴らは人間の敵であり、脅威なのだ。屠らなければ、いずれ、罪もない誰かが傷ついていただろう。かつてのロアと同じように。だから―― 「……くっ」  だから、これは罰ではない。  どこまでも一方的な、蹂躙だ。 「暴れないで。腕を潰すよ」  冷ややかに言うと、それを証明するかのようにリクはロアの腕を縫い止める手に力を籠める。交叉した左右の腕がぎりぎりと軋み、宣言どおり骨ごと押し潰されるかのような痛みに、さすがのロアも苦痛の呻きを漏らす。  ああ、思い出す。  圧倒的な力を前にした絶望。己の無力さへの怒り―― 「痛い?」 「……は?」  意外な言葉に呆気に取られたのも束の間、リクの腕がふっと力を緩める。その、思いがけない行動にロアが途方に暮れていると、宥めるようにリクの舌先がロアの唇を舐めた。 「ごめんね」 「……えっ」  どういうことだ? 今の言葉は一体?  茫然となるロアをよそにリクは、なおもロアの腕を縫い止めたまま身を屈める。剥き出しの胸板に鼻先を寄せ、匂いを確かめるようにすんすんと鼻を鳴らす。ただでさえ夜気で粟立った肌に吹きかけられる吐息は、それだけで強い不快感を誘った。 「っ……く」  今度は舌で肌を舐める。味を確かめるように、舌の腹を押し当てるようにじっくりと舐るその仕草は、獲物の骨に残る肉を舐め取る獣人そのもので、改めてロアは嫌悪感を覚えた。  その舌先が、偶然、胸の一点を舐る。刹那、痺れるような感覚が背筋を襲い、たまらずロアは身を捩った。 「ふ……っ」 「やっぱり、ここがいいの」  そしてリクは、今度は舌先でそこを小突く。 「あの女の人も、ここが好きだったんだ。吸ったり、舐めたりすると、すごく、悦んだ」 「っ……ざけるな! それは女の話だろうが――」  が、そんなロアの抗議をリクは当然のように聞き流すと、ふたたびロアの突起に鼻を寄せる。今度は丸めた舌先で突起を包むと、そのまま、乳でも絞り出すようにきゅっと吸い上げた。 「っ、あ」 「ほら」  囁くと、ふたたびリクは突起を吸う。 「悦んでる。……変わり始めてる。匂い」 「匂い……だと?」  嘘だ。そんなはずがあるか。  ロアがこの世で最も憎む存在、それが獣人だ。その獣人に組み敷かれ、好き勝手に肌を舐め回されて嬉しいはずがない。現に今も、ロアは吐き気を堪えるので精一杯なのだ。心臓を焦がすほどの怒り、憎悪、そして嫌悪。そのいずれもは、悦びとはおおよそ程遠い感情だ――なのに。  なのに、この、痺れるような感覚は。  やがて、ようやくリクが身を起こす。胸から離れた舌先がつぅと唾液の糸を引き、それが、ランタンの光を浴びてわずかに煌めく。  舌から解放された突起は、見たことがないほど赤く膨れていた。 「な、んだ……これ、っ」 「やっぱり、ここが良かったんだ」 「ち、ちがっ……いい加減にしろ、リクっ!」 「駄目」  今度はロアの首筋に顔を埋めると、ねっとりと耳朶を舐る。 「ロアは嘘つきだから」  低い、吐息まじりの声が鼓膜に注がれる。冷ややかに突き放すような、そのくせ縋るような声に、ロアはただ困惑することしか許されない。 「――っ!?」  不意に下腹部に違和感を覚えて、見ると、リクの手がロアのパンツに手をかけていた。  やめろ。それ以上は。  だが、ロアの願いに反してリクは早々とロアのパンツをずり下ろす。躊躇も遠慮もない、狩人が獲物の皮を剥ぐにも似た手つきに、今更のようにロアは自身の立場を思い出す。一匹の獲物として、ただ蹂躙されることしかできない己の無力さを。 「……俺のと違う」  露わになったロアのそれを見下ろしながら、リクは怪訝な顔をする。 「小さい。それに柔らかい。どうしてロアのは硬くならないの」 「なるか馬鹿っ! お、男に、それも獣人にこんなことされて、硬くなるわけないだろ!」  するとリクは、初めて悲しそうな顔をする。その表情は普段の幼く頼りないリクのそれで、いよいよ印象が定まらなくなる。ロアを加虐しながらも気遣い、支配者として振る舞いながらもあっさりと隙を見せる。何もかもがちぐはぐで、だからこそ恐ろしい。 「……俺のは、もう、こんななのに」  そしてリクは、唐突に自身のパンツをずり下ろす。  刹那、縛めを解かれたそれが弾けるように夜気へと飛び出す。先端まで赤く充血し、大きく傘を張る巨大な刀身。その、見紛いようのない雄の化身を前に、改めてロアは、自分が欲望の対象と見做されている現実を思い知る。それも、あのリクに。  子供だと思っていた。思い込もうとしていた。  それは、リクが女を知った後も変わらなかった。たかが一、二回の性交で何かが変わるとも思えないと。だが違った。リクは決定的に変わってしまった。リクを誘った女の欲望と、そして、あのゲインの悪意によって――  本当にそれだけだろうか。  自分は、何か決定的な本質を見落としている。何か……  その時、ふと腕の縛めを解かれてロアは我に返る。すかさず身を起こし、リクから距離を取ろうと逃げを打った瞬間、長い腕が強引な腕力でもってロアの身体を俯せにした。ふたたびベッドに叩きつけられ、抗う間もなく足からパンツを抜き取られるロア。そんな、隠すもののなくなったロアの腰を、巨大な手のひらがすかさず左右から掴み、強引に足元へと引き寄せる。  まさか――このまま?  息を呑んだ刹那、ロアの尻が長い指に押し開かれる。分け目が露わになり、ただでさえ敏感な皮膚が夜気に触れて背筋が凍った次の瞬間、その最も脆弱な窄まりに焼けるような熱が無遠慮に押し当てられた。  入らない、とは思わない。現に過去、今よりずっと未熟だったこの身体に、あの忌まわしい獣人どもは遠慮も気遣いすらもなく雄を突き入れてきた。激痛と呼ぶにも生温い痛みと、体内を巨大な異物で掻き回される不快感に何度嘔吐し、失神したか知れない。  それを今、また―― 「駄目」 「……は?」 「このままじゃ……全然、濡れてない」  言うなりリクは、ロアの腰をさらに高く抱える。シーツから膝が離れ、ついにロアは下半身の自由を完全に奪われてしまう。それでも、辛うじて解放された腕でシーツを掻き寄せ、なおも脱出を図る。  諦めない。絶対に。あの時も俺は、最後まで諦めなかった―― 「ひ、っ!?」  不意に窄まりを襲った刺激にロアは息を呑む。ざらざらとして、そのくせねっとりとへばりつくようなこの感触は、まさか。 「お、おい、っ!」 「じっとして」  静かな、それでいて刺すような叱責に覚えずロアは硬直する。そんなロアの硬直をほぐすかのように、なおもリクの舌はロアのそこを舐め回す。焦らすようにくりくりと輪を描いたかと思えば、尖らせた舌先を唐突に埋める。人間のそれに比して長い獣人の舌は、指よりもなお器用に奥を探り回った。 「や、やめ……ろ、っ」  気持ち悪い。  不快で、悍ましくて。なのに、なぜ背筋は疼いてしまうのだろう。リクの舌先に中をまさぐられるたび、腰の奥がじんと痺れてしまうのだろう。 「い、や……だっ……んっ」  爪先と腕、顎だけで辛うじてバランスを取りながら、辛うじて抗議の声を上げる。が、そんな声にいちいち耳を傾けるリクではない。そのリクは、相変わらずロアの窄まりに舌を埋めたまま、唾液のぬめりを与えてなおも奥を舐め啜る。 「ぁ、んっ」  ふと唇から漏れた声にロアは愕然となる。  何だ、今の声は。まるで娼婦のような。 「いい声。可愛い」 「か、わいい、だと、ふざけ――んあ、っ」 「ね?」  得意げなリクの声に、しかし、ロアは何も反論できない。漏らした声の甘さいやらしさは否定しようがなく、今のロアにできることはせいぜい、二度とこんな声を漏らすまいと唇を噛みしめることだ――が。 「や、いや……あっ」  なぜだ。  どうして、こんな娼婦じみた声が止まらない。 「やめ、どうし、てっ、こんなっ、や、あんっ」 「嘘。身体は、やめるなって言ってる」 「なにをっ、根拠、に――っつ!?」  不意に思いがけない場所を掴まれ、ロアは息を呑む。敏感な場所を掴まれた痛みそれ自体は勿論だが、何より、それを掴まれた際に伝わった自身の身体の変化にロアは愕然としていた。  硬くなっている。まさか、こんな行為で―― 「ひ、っ」  前に気を取られ油断したのだろう、深い場所を舌先にこじ開けられる。唾液を注がれ、無理やりぬめりを与えられた奥は、もはやリクの舌を拒むことはできない。ただ好き放題に蹂躙されるばかりだ。  もう二度と、屈してはならないと誓ったはずなのに。  今度はそのさらに奥へ。リクの舌はどこまでも深く進んでゆく。ロアの中を全てリクの唾液で穢してやろうと言うように。  だがロアは、その先にあるはずの本当の蹂躙を知っている。そしてリクも、おそらくはそれを求めているはずだ。この浅ましい行為も、所詮はその下準備に過ぎない。  であれば、反撃の機会はその一瞬だ。その一瞬で―― 「そろそろ、いい?」  案の定、やがてリクは舌を抜くと、ロアの腰をベッドに下ろす。  ――今だ。  ベッドを蹴り、先程奪われベッドの下に放り投げられた短剣に手を伸ばす。この剣さえ手にしてしまえば―― 「……は?」  なぜだ。どうして足が動かない。  全ての縛めは解かれているはずだった。完全に与えられた自由の中で、ロアの身体はそこから逃れることを拒んでいた。とくに腰が。ぐずぐずに蕩けたまま、その場に留まることを望んでいる。唐突に突き落とされた喪失感の中で、新たな熱を欲してわなないている。 「ち、くしょう、」  どうして。どうしてどうして。  相手はあの獣人だ。たとえ待ち望んだとして、終わりのない苦痛と屈辱が待つだけだというのに。それをロアは、身をもって学んでいるというのに…… 「ロア」  背後から名を呼ばれ、身体ごと振り返る。相変わらず目の前にいるのはロアが憎むはずの獣人で、しかし、その獣人はなぜか、ひどく穏やかな瞳でロアを見つめている。  獲物を手にした者の余裕か。あるいは――慈悲か。  前者ならまだ理解もできる。だが、後者だとすれば逆に理解できない。そもそも獣人とは冷酷で、身勝手で、おおよそ他者を貴ぶことのできない生き物だ。その在り方に例外はない。決して。 「やれよ」  投げやりに、ロアは吐き捨てた。 「欲しいんだろ。俺が。だったらやれよ。……だがな、それも今夜限りだ。俺は、お前のつがいにはならない。お前が何をどう勘違おうと、俺にとって獣人は敵だ。それだけは決して変わらない」  その言葉にリクは悲しげな顔をすると、やがて、絞り出すように言った。 「俺も、ロアは憎いよ」 「……ああ、知ってる」 「けどね、それと同じぐらい――ううん、それ以上に、好きなんだ」  そしてリクは、ふ、と笑う。お世辞にも分かりやすいとは言えない獣人の表情。だが、その目は確かに笑っていた。満ち足りたように優しく。  胸の奥が、見えない力に締め付けられる。  何かがロアの胸をぐちゃぐちゃに掻き回し、千々に引き裂いている。その痛み苦しみに、今にも心がどうにかなってしまいそうだ。  ずっと、獣人への憎悪のみを胸に生きてきた。  そんな己の生き方に、今の今までロアは何の疑いも抱かずに生きて来た。獣人は憎むべき存在。その単純な理屈は、傷ついたロアを確かに救ってくれた。むしろ、全てを奪われたロアの心を支えるには、よりシンプルな理屈が性に合ってはいたのだ。ただ―― 「痛かったら……言ってね」  ロアの腰を獣人の巨大な手が持ち上げる。そのままリクは、ベッドとロアとの間に生まれた隙間に膝を押し込むと、今なお硬さを保つ雄の先端をロアの窄まりに押し当てた。  すでに充分ほぐされたそこは、早くも熱を求めて先端を舐る。先程の舌とは比較にならない熱量と質量。それでもロアの濡れた窄まりは、ねだるようにリクを求める。  その、浅ましい要求に応えるかのように、リクは腰を進める。ロアの痩せた身体を二つに折り畳みながら、ゆっくりと、中に押し込んでいった。 「……は、ぁ」  巨きいとは心得ていた。  だが、中で感じる異物感と圧迫感は見た目以上だ。子供の下腕ほどもあるそれは、容赦なく臓腑を押し上げ、ただでさえ体勢的に苦しい呼吸をさらに圧迫する。途方もない息苦しさと異物感。だが今はそれ以上に、空虚な箱の中身を埋めることのできた達成感が心地よかった。  まさか、獣人のものでこんな――  ほどなくリクの刀身は、いともすんなりと根元まで呑み込まれてしまう。充分にほぐされ濡らされた中は、むしろリクを迎え入れるように奥へ、奥へと蠕動した。その蠕動がリクの質感をロアに伝え、全身を弾けるような喜悦が貫く。 「あ、う、んっ」  零れ出る嬌声を拾い上げるように、リクの舌がロアの唇を舐める。 「……好き」  そのままリクは、ロアの口腔へ舌をねじ込んでくる。そのままロアの舌先を絡め取り、先ほど胸の突起にそうしたように気まぐれに吸い上げながら、ゆっくりと、腰の抽挿を開始する。 「好き。大好き。世界で一番憎いけど、でも、世界で一番、好き」  次第に腰の動きが速度を増してゆく。それにつれ、中を埋めるリクの雄もさらに質量を増してゆく。かつて散々蹂躙され、無理やり開かされた身体。状況はあの時と何も変わらない。だが、今、ロアの身体は自らリクに開いていた。憎いはずの獣人を、自ら求めわなないていた。 「好き、ロア」 「っ……んっ、あ……」 「大好き」  何かがロアの腹を濡らす。見ると、リクの揺さぶりに合わせて揺れるロアの先端から透明な何かが溢れ、受け皿である腹筋に糸を引いていた。  感じ……させられている。後ろだけで…… 「あ、はぁ、んっ!」  ひときわ甘い悲鳴が喉を劈く。リクの先端が中のある一点を突き上げた刹那、それまで味わったことのない喜悦がロアの身体を貫いたのだ。  さらにリクは、二度、三度と繰り返しそこを責める。そのたびにロアの喉は、娼婦めいた悲鳴をあられもなく漏らした。 「い、やだ、そこ……や、あっ」  が、リクは止めない。否、止めるはずもない。すでにリクの嗅覚は、ロアの匂いの変化に気付いているだろう。それが、ロアの身体が訴える本当のメッセージであることも。 「……ロア、好き」  さらにロアは抽挿を加速する。全力疾走にも似た荒々しい抽挿に全身の肉という肉を揺さぶられながら、次第にロアの身体は上り詰めてゆく。掻き回される肉襞ははしたない水音を垂れ流し、前の方もすでに小刻みな射精を繰り返している。 「好き」  やめてくれ。  こんな、ぐずぐずの意識にそんな言葉を吹き込まれたら、俺は。 「――リク、っ」  刹那、ロアの奥を焼けた鉄にも似た熱が叩く。その、強烈な刺激に心と身体が震えた次の瞬間、呼応するかのようにロアの雄が吐精する。 「……ぁ、は、ぁ」  駆け上がった高みから、急速に意識が落下する。が、それは決して恐怖を伴うものではなく、むしろ程よい浮遊感をロアに与えた。  そんなロアの鼻先で、なおもリクは囁く。 「ロア、好き」 「……ああ」  なぜだ。  どうしてこの男は、この期に及んでなお衒いなくロアを好きだと言えるのか。自分を騙すための暗示としてでもなく、純粋に心の底から溢れ出る言葉として、憎むべき仇に愛を伝えられるのか。  そんな生き方が、この世界にはあるのか。  だとすれば、あるいは、俺も――
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