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目的地にたどり着いたのは、昼を少し回った頃だった。
今回の目的地ナジャは、魔の森と呼ばれる異種族の巣窟にほど近い辺境の町だ。以前は異種族の災禍に苦しんでいたが、王令により軍事基地が置かれて以来はその害も激減した。
おかげで近年は、周辺地域から多くの人間が流れ込んでいる。最近では城壁の内側だけでは住居が足りず、新たに城壁を設けて市街地を広げる計画が立てられているほどだ。
「ここ、うるさい」
人や荷車がしきりに行き交う城門を睨みながら、隣を歩くリクがうんざり顔で耳を塞ぐ。人間には安堵をもたらす人の雑踏や町の賑わいも、リクにはただのやかましい騒音にすぎないのだろう。
「じゃあ帰れ。別に俺はついてこいと頼んだ覚えはないんだ。一度もな」
するとリクは、駄々っ子のようにかぶりを振る。どうあってもロアについて行くつもりらしい。
……つくづく憐れな生き物だ。
「そこの二人!」
突然の怒声にロアは前に向き直る。見ると、門兵の一人がロアたちの前に立ち塞がっていた。
「どうした?」
「どうしたも何もあるか! 何だその男は! 血まみれじゃないか!」
そして門兵は、蒼褪めた顔でリクの外套を指さす。朝方の獣人との戦闘で血に染まった外套を。
「ああ、あれは獣人の血だ」
「獣人? ……まさか、出たのか!? 獣人が!?」
「まぁな。街道沿いに二十匹ばかり出たもんで相手してやったのさ」
「なんだって!?」
そして門兵は、ただでさえ蒼い顔をさらに蒼くする。
結局、あれから本隊の獣人たちに捕捉されたロアは、その後、思いがけず相手を強いられる羽目になった。リクがロアを叩き起こしてさえいれば避けられた災難。もっとも、それを言えば獣人の接近に気付かなかったロアの落ち度でもあるのだが。
「ま……まずい。すぐに街道を封鎖しなくては……このままでは他の通行人まで獣人の餌食にされてしまう……」
「ああ、その必要はない」
「えっ?」
ロアの言葉に、門兵は虚を突かれた顔をする。そんな門兵の反応に新鮮味を覚えつつ、平気な顔でロアは答える。
「獣人は一匹残らず片付けておいた」
「は? い……一匹、残らず? 馬鹿な、そんなこと、」
「できるんだよ、そいつにはな」
答えたのはロアではなく、新たに現れた年配の門兵だった。弾かれたように振り返る若い門兵。そんな彼に、年配の門兵が呆れ顔で苦言する。
「おい新入り。お前もナジャの兵士なら、そいつの人形みてぇに綺麗な顔と銀色の髪とをよぉく覚えておけ」
「えっ? このチビの……ですか?」
「そう。そのチビのだ。そいつこそは、辺境の獣人どもをたった一人で殺して回る伝説の獣人殺し、ロア=リベルガ様なんだぜ」
「えっ!?」
腰を抜かす若い門兵に、うんざり顔でロアは肩を竦める。
「チビで悪かったな」
「おいおい、気を悪くするなよロア。俺とお前の仲だろ?」
「知るか」
言い捨て、リクとともに城門へと足を向ける。そんなロアの背中を、ふたたび年配の門兵が呼び止めた。
「そういえば、ゲインが町に来てるぞ」
その名前に、ロアはふたたび足を止める。
「……ゲイン?」
「ああ……知り合いじゃないのか?」
「いや、まぁ」
曖昧に答えると、今度こそロアは城門をくぐった。
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