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「守りたかったんだよ。おまえは日本に貢献してきただろうが。その報酬も得てないし、評価もされてない。そういう理不尽なのは嫌いなんだ」
達哉は苦笑いした。小川警部のいいところは、このまっすぐなところで、曲げられない性格だ。
「報酬も評価も、別にいりません」
達哉がそう言うと、小川はぎろりと彼を睨んだ。達哉は小川を見返し、肩をすくめた。もう何も言いませんって。
「そういうおまえの態度が、奴らを増長させるんだよ。いいか、おまえは三年間休みなしで働いてきたようなもんだぞ。優秀なテロリスト役だったし、優秀な指導者でもあった。確かに優秀すぎて鳥肌が立つぐらいだったけどな。奴らもそう思ってるんだよ。おまえは言ってみれば、不発弾みたいなものだからな。最初は爆発したところでクラッカーみたいなものだとタカをくくっていたのが、実はダイナマイトぐらいかもしれないとわかってきた。それで自分で持っているのが怖くなってきて、誰かに引き渡したくなったんだろう。自衛隊や米軍に研修に出したがるのはそのせいだ。散々ただ働きさせといて、もういらないから、どこかへ行けってのはおかしいだろうが。それも出来るって理由で。俺はそれが我慢できねぇんだよ。おまえを外に出したら、おまえが名前を変えた意味がなくなっちまう」
「そんなもん、もともとないでしょ。知ってる人は知ってるんだし」
小川はまた達哉を睨んだ。それは言わない約束だ。コロンビアの内戦で腕のいい狙撃手だった少年兵は、元いたTCVというコロンビアの反政府ゲリラ組織の長を殺したとされていた。それは世界平和的にはいいことに思われたし、コロンビア的にも良い方向に見えた。本人は世界平和に貢献したつもりもなく、ましてや狙撃の腕を知らしめるためにやったのでもなかったが、外から見ればそう見えた。
そこで『エル・ニーニョ(神の子)』とゲリラ時代に恐れられたその少年を戦争から遠ざけるため、彼の名前を変えて日本で引き取ったのだ。それはアメリカとコロンビアと日本の三国での取り決めで成立したことで、確かに達哉の前の名前を知っている人物も多ければ、通称を知っている者も多い。ただ、裏でも表でも知っているのは上の方だけで、末端までには伝わっていない。
「意味はある。知る必要のない人には、知られない。おまえを外に出せば、知らなくていい人にも知られてしまう。おまえはもうコロンビアの呪縛には縛られる必要はない」
「別に縛られてないですよ。中尉、大丈夫ですって。中尉が心配してるのは、俺の正体がばれることじゃなくて、俺がそれを利用して悪いことしないかってことでしょ?」
「何だと?」
小川は達哉を見た。悪びれるでもなく、達哉は首を軽くかしげる。
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