1 1998年

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「俺がテロリストに戻るんじゃないかって思ってるんでしょ? 軍で研修を受けて、最新の情報を手に入れて、それを使ってテロを起こさないかって。そういうことですよね」 「おまえがテロリストに戻るとは思ってない」 「じゃぁ何が心配なんです?」  小川は少し眉間にしわを寄せた。「おまえが、誰かに脅されたり、捕まって、テロに協力させられるんじゃないかと思って心配なんだよ」 「脅されても、やらなきゃいいんでしょ?」 「やらなきゃ殺されるという場合もある」 「殺される?」  かすかに達哉の顔に笑みがうかぶ。小川はうなずいた。訂正しよう。 「おまえが相手を殺しても困る」 「心配しなくていいですよ。テロリストともうまくやっていきます」 「うまくやってもマズいだろ。そしたら俺はおまえを追わないといけなくなる」  達哉はうなずいた。「追ってください」 「嫌だ」 「嫌だって…仕事でしょ」達哉は笑った。 「なんでおまえを追わないといけないんだ」 「俺がテロリストになるから」 「おまえはテロリストにはなれない。テロで世界が変わるとは思ってないだろうが」 「カウンターテロがテロを止められるとも思ってませんよ」 「そうだな」  小川は煙草を灰皿に入れて、息をついた。ここがこいつの愛すべき長所であり短所だ。 「中途半端な奴だ。そういうところが理解されんところだよ。いいか、テロリストの前では信じたフリをしろ。それからカウンターテロの組織にいる間は、テロを阻止できると信じたフリをしろ。フリで構わん。それから俺におまえを追わせるようなことはするな」 「でももしそういう必要ができたら、中尉は俺のことは考えずに追ってください。俺がもしテロ側にいたら撃ってください。恨みませんから」  小川は黙って達哉を見た。そうこいつに言われると、本当になりそうで怖い。 「俺は多分、脅されなくてもやりますよ。今こっちにいるのだって、別に脅されたわけじゃないし」
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