23人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺がテロリストに戻るんじゃないかって思ってるんでしょ? 軍で研修を受けて、最新の情報を手に入れて、それを使ってテロを起こさないかって。そういうことですよね」
「おまえがテロリストに戻るとは思ってない」
「じゃぁ何が心配なんです?」
小川は少し眉間にしわを寄せた。「おまえが、誰かに脅されたり、捕まって、テロに協力させられるんじゃないかと思って心配なんだよ」
「脅されても、やらなきゃいいんでしょ?」
「やらなきゃ殺されるという場合もある」
「殺される?」
かすかに達哉の顔に笑みがうかぶ。小川はうなずいた。訂正しよう。
「おまえが相手を殺しても困る」
「心配しなくていいですよ。テロリストともうまくやっていきます」
「うまくやってもマズいだろ。そしたら俺はおまえを追わないといけなくなる」
達哉はうなずいた。「追ってください」
「嫌だ」
「嫌だって…仕事でしょ」達哉は笑った。
「なんでおまえを追わないといけないんだ」
「俺がテロリストになるから」
「おまえはテロリストにはなれない。テロで世界が変わるとは思ってないだろうが」
「カウンターテロがテロを止められるとも思ってませんよ」
「そうだな」
小川は煙草を灰皿に入れて、息をついた。ここがこいつの愛すべき長所であり短所だ。
「中途半端な奴だ。そういうところが理解されんところだよ。いいか、テロリストの前では信じたフリをしろ。それからカウンターテロの組織にいる間は、テロを阻止できると信じたフリをしろ。フリで構わん。それから俺におまえを追わせるようなことはするな」
「でももしそういう必要ができたら、中尉は俺のことは考えずに追ってください。俺がもしテロ側にいたら撃ってください。恨みませんから」
小川は黙って達哉を見た。そうこいつに言われると、本当になりそうで怖い。
「俺は多分、脅されなくてもやりますよ。今こっちにいるのだって、別に脅されたわけじゃないし」
最初のコメントを投稿しよう!