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ふっと目が覚める。部屋の中には煌々と太陽の光が降り注いでいた。
うつ伏せ寝の状態から仰向けに転がると身体中にびきっと痛みが走った。まだ脳内は微睡の中にある。
そんな中、昨夜の情事を思い出して相手に一言でも嫌味をぶつけてやろうと姿を探すもそのベッドには悠一人だけだった。
「……んだよ…」
あんなことを言っておきながら結局朝までいないのかよ。そう思うとふいに寂しさがこみ上げてきて腹立たしくなった。
治樹に振り回されている自分が嫌になる。それを望んでいる自分にも嫌気がさす。
もう一度眠ろう。そう布団を深くかぶったとき玄関のドアが開いてどすんどすんと大きな荷物が置かれるような音がした。
不審に思い適当に衣類を身に纏って玄関に向かうとやや不機嫌な治樹の姿があった。
「お、まえ、それ、何。」
「何じゃないですよ!!この家何もなさすぎ!どうやって生きてきたんすか…マジで信じらんねぇ…ほら、これ持って!とりあえず飯にしましょう。」
「は?おい!なんだこれ…洗剤?」
水垢一つない綺麗なシンク。というより今まで使われてこなかったシンクに様々な道具や具材が置かれた。
ボンボンだと思っていた男の見事な手際に目が釘付けになってしまう。
「惚れた?」
「うるせぇ。」
出てきたのは冷製パスタだった。具材もふんだんに乗っている。
一口、また一口と食が進んだ。
「どう?美味しい?」
「あー…うん…」
「あれ、不味かったかな…」
「いや、違う。俺、味覚障害で味分かんないんだよ。ガキの頃から…」
「そうだったの…」
「悪いな、せっかく作ってくれたのに…」
「いいや。これから俺がたくさん作るからそれで味覚障害治そう。」
「たくさんって…つーかお前んち金持ちだろ。何でこんなの出来るんだよ。」
「俺は兄貴たちとは違って親父から見放されてたし、だから塩田さん、ああお手伝いさんね。塩田さんの手伝いを結構してたんだよ。」
「へぇ……」
こんな金持ちでも複雑なところがあるのだなと思う。
いつのまにかぺろりと平らげて綺麗になった皿があった。
それを治樹が手に取り水につけて洗い始めた。皿洗いくらいすると言ったのだが断られた。
「体しんどいでしょ。座っててください。」
「誰のせいだ…」
「俺ですけど…最後は御子柴さんもノリノリだったじゃん。抱きしめて離さなかったのはそっちですよ。」
「してない!」
「しました。」
くだらない言い合いと明るい中で見る私服の治樹。
彼は悠の気持ちを己に向けたいと言っていた。自分もやれるものならと挑発した。
しかしその勝負はもう決着がついているのだろうとうすうす感じる。でも言わない。
「これ終わったら洗濯と掃除!」
「う……それでこの買い出しの量か…」
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