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「さぁどんどん食べて!!まだあるからね!!」
「こ、こんなに…」
「すみません、俺のせいかも…」
「さぁさぁ!!」
張り切った女将たちによる、おおよそ二人分とは到底思えない量の豪勢な食事を前に二人で固まっていた。
治樹もそこまで大食いではないし、かたや食にはほとんど興味のない男だ。さすがにと頭を下げて量を減らしてもらった。
「でもうまそう!いただきます!」
「いただきます…」
どれから手をつけたらいいのだろうか。こういった料理は食したことがない。どれが何かよく分からなかったので、一番手前の小鉢を手に取った。
一口含んでみる。
「!!!なんだこれ!」
「え?」
「変な味…」
「味…?ねぇ、これ食べてみて。」
「ん?……うぇ、これも変。」
「これ、シソだよ。すっぱい味。次これ食べてみて。」
「…これは食える。」
「これはムース。甘い味。」
一口ずつ口に運ぶ。どれもこれも違った味が口いっぱいに広がった。
悠が初めて体験する味という世界。こんなにも楽しいものだったなんて。
もっとたくさんの味を知りたい。そう思っても胃袋のキャパシティをオーバーしてしまう。残念ながらここで打ち止めだった。
「感想は?」
「これからはもっと…食べてもいいかも…」
「うん、美味しいものいっぱい食べよう。」
自分のことに、自分以外の人間が、自分以上に嬉しく思ってくれている。
それがどれだけ幸せなことか。心臓の鼓動が少し早く動いている。これが相手に聞かれなければいい。
「じゃぁ、食後の運動でもしますか。」
「発想が中年くせぇ。」
「ひでぇ…」
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