春夏秋冬~冬~(受けの自慰表現、過激表現あり)

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「どうしていなくなったんですか。俺、何か気に障ることしましたか?」 「…お前、子ども庇って撃たれたんだろ。」 「はい。」 「…俺と重なったんじゃないか?ヤク中のろくでなしの親の子。」 「……ああ、言われてみれば。」 「俺と関わらなきゃ、撃たれることもなかっただろ…」 突然、治樹は思い切りクラクションを鳴らした。 あまりの音に驚いて声が出る。当の本人はそれだけに飽き足らず運転席側の窓を思い切り拳で叩いた。 普通のガラスなら割れていただろう。 「はぁ!?アンタもしかしてそれ自分のせいだとか思ってます!?俺が怪我したの御子柴さんのせいだって!!寝言は寝て言えよ!」 「は、はぁ?」 「子どもが撃たれそうなあの状況で飛び込まない刑事いないでしょ!それに警察官なら怪我の一つや二つするでしょ!」 「…あ、の…」 「自惚れんなよ!!アンタに人を不幸にする特殊能力なんてないの!そんなこと皆に言ったら怒られますよ!?」 現に今治樹に怒られている。でも自分だって悩んだ。関わらなければと思うのは必然である。 そう言おうとする前にアクセルをベタ踏みして公道に出た治樹の横顔が恐ろしく何も言えず再び黙って固まった。 治樹はBluetoothを起動してワイヤレスマイクを使って対策室に連絡を入れる。 「あ、もしもし俺です。はい、ホシは確保しました。今都内からだいぶ離れたところにいるので…ええ、今日はもう高速難しいと思います。はい、明日そっちに向かいます。かなり絞っておきますので、はい。では。」 (今不穏な空気が…) 無言の車内の中、ラジオが流れる。吹雪の情報を逐一報告してくれていた。 今日は都内に戻れない。きっとどこかで一泊して明日戻るのだろう。治樹はそのどこかに今向かっているはずだ。時刻は午後2時。この年末どこも一杯だと思うが。 (まさかそういうホテルに…?) さきほどまで生き死にを深刻に考えていた男が不埒なことを脳裏に焼き付けてしまう。 「御子柴さん。」 はい、と思わず敬語になる。 「今日、何の日か知ってます?」 「え…?……クリスマス、か。」 「そ。ちゃんとお祝いしましょうね。」 台詞と表情がミスマッチもいいところである。 漸く市街地が見えてきてその中でも駅近の一等地にある高級ホテルに車が何のためらいもなく入っていく。 無言で歩く治樹の後ろをついていく。 ロビーには豪華なシャンデリア、高級ソファーが並んでいた。 待っているように言われて座っていても全く落ち着かない。それに自分のこのみすぼらしい恰好からこのホテルでの場違いは火を見るよりも明らかだった。 (消えてしまいたい…) 受付に行った治樹を目で追うと、何やら交渉しているようだった。受付の女性が困ったような表情をしていると懐から何かを出している。 それを見た女性は慌てて支配人のような装いの男性スタッフを連れてきた。 支配人はすぐにルームキーを治樹に渡して荷物をベルマンに運ぶよう指示していた。 どうやら部屋が取れたらしい。 「さ、行きましょう。」 「俺そんなに手持ちないんだけど…」 「元々期待してませんし、もらうつもりもありません。」 「むかつく…」 エレベーターに乗り込むと最上階を押した。随分と客室の多いホテルだなと思う。こんな最上階まで部屋があるなんて。 こういったブルジョアな知識に疎い悠はエレベーターを降りて絶句する。客室が一つしかない。 「え…?」 「お待たせしました。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください。」 ここは個人宅か?と思わせるような広々とした室内。ベッドも無駄に4つもある。 「こ、ここここ…」 「ああ、スイートルームですよ勿論。やっぱりこういう日は額出すに限りますね。」 (何の話をしているんだ?) 「とりあえず体冷えてるからお風呂入ってください。」 「……お前は?」 「一緒に入りたいですか?」 「ちげーよ!ばか!」 身体は冷えているのに顔はこの上なく熱い。頭からシャワーを浴びて身体をボディソープで洗う。 悠の頭の中はこれからのことでいっぱいだ。約2週間、離れていた相手と今宵共にする。事に及ぶのかどうかもあるが、それ以上にきっちりけじめをつけなければいけない。 本当はあそこで死ぬつもりだった。そのつもりで身辺整理をし、治樹から離れた。アパートまで解約したのに。 (ん…?アパート…?) 帰る場所を無くして己を追い詰めた。 (しばらくは対策室に泊まるか…) それなのに彼は追いかけてきた。更に離すつもりはないと言って自分をこんなところまで連れてきた。 (どこか…期待してた…) 探してくれる、と。自分でもあまりの身勝手さだと思う。 シャワーを止めてバスタオルで体を包む。濡れた髪は簡単に水気だけを取り、下着を身につけローブを纏った。
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