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「本当に殴った!!」
「当たり前だボケ!!死ぬかと思ったわ!!」
あの後案外長持ちしてしまった治樹のせいで悠の体はガンガンに突かれた反動を受けている。
目の前はチカチカするわ、ドライで果ててしまうわと散々だった。
終わってからもほとんど動けていない悠の代わりに治樹は温めたタオルで体を拭いてあげている。
「お前明日俺が動けなかったらどうすんだよ…」
「そしたら有給使いましょう。」
「仕事なめんな。」
「その仕事を簡単に辞めようとしたのは誰ですかね?」
「うっ……」
「全く。あ、そうだ、アパートどうするんですか?住むとこないじゃないですか。」
「いいよしばらく対策室に泊まるし…」
「いけません。安心してください。もうマンション押さえてあるんで。」
「……マンション…?」
「はい。俺もすぐ引っ越しますんでお先どうぞ。」
「は!?なんだそれ、え、いつ、え、どう、え??」
「一昨日くらいかな。いい物件見つけて申し込んじゃいました。」
「……お前俺がいなくなってたらどうするつもりだったんだよ…」
「は?そんなの認めるわけないでしょ。」
顔がマジだ。この会話はすぐに終わらせようと本能が警告してくる。どっちみち自分には選択肢もなければ拒否権もない。
拒否する理由もない。
「…家賃折版だからな。」
「はいはい。朝から晩までずっと一緒ですね。幸せだなぁ。」
隣で横になる悠の体を抱きしめて首筋に少し強く吸い付いた。
痕残るだろ、と軽く小突かれる。
満更でもない様子だ。ふっと笑って今度は唇に吸い付いた。
「ねぇ、悠さんは幸せ?」
彼は少し戸惑ったように目線を外し、数秒彷徨った末にもう一度治樹の視線を捕らえた。
「よく分かんねぇ。けど、お前が幸せなら俺も幸せなんだと思う。」
「………」
「…え、違った…?」
「んーん、嬉しすぎて何も言えなかった。うん、そうだよ。その通り。悠さんも幸せなんだよ。」
「……ん…」
明日は朝イチでチェックアウトしないとね。そう言って灯りを全て落とす。
気付いたころにはこの暗闇も平気になっていた。治樹の声が耳に入り、存在を肌で感じられるから怖くなくなった。
自分をここまで大きく変えてくれたのは治樹だ。
(ありがとう…)
鍛えられた太い腕に自分の腕を絡めて肩にすり寄った。この暗闇じゃ顔は見えないだろうと思って。
「おやすみ。悠さん。」
「おやすみ…治樹。」
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