春夏秋冬~夏~(過激表現あり)

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足早に車内に戻る。 まだ鼓動が煩い。 何を思ったかこんな風にしてしまった。彼は気付いただろうか。痴態を目の当たりにして興奮し股間を大きくしている自分のことに。 あのまま勢いに任せてヤってしまえば良かったかもしれない。けれどきっといつものように抱けなくなる。だって気付いてしまったから。 悠に欲情している自分に。 どうにか熱をおさめたい。スマホで彼女に連絡を取る。突然の訪問に喜ばれたが会話もそこそこにとりあえずすぐヤった。 だが治樹の脳内に描かれているのは目の前で乱れる彼女ではなく、嫌いなはずの先輩の淫靡な姿だった。 悠のイき顔で己も吐精したとは言えるまい。 (全て悪い夢ならいいのに……) 〝愛していた″彼女の寝顔を見てそう思う。 「鷹橋くん、顔色悪いけど…大丈夫?」 「あ、ハイ…大丈夫です…ちょっと寝不足で…」 あのあとほとんど眠れず朝を迎える羽目になってしまった。 目を瞑ると浮かび上がるイかされている悠の顔。 大庭から早く帰りなよと忠告を受け、今日の捜査対象の元へ向かった。 例のごとく悠は先に張り込みをしている。 近くのアパートを借りて張り込みをしているため暴力的な太陽の陽ざしは避けられた。 「お疲れ様です。」 「テメェ昨日はよくもあのまま放置してくれたな…」 「ネクタイ返してください。」 「捨てたわボケ!」 いつもなら一言も発さないのに今日は随分と挑発的だ。 なんとなくそれに乗っかってじゃれ合うような言い争うをしてしまう。 それを一瞬でも楽しいと思ってしまったら後戻りできない。 (ああ…もう無理だな、これ) 今すぐに押し倒したい。仕事中であることを忘れてしまう。 これではいけない。悠と交代し見張りをかって出た。 ある意味視界に入れたくない。 早く今日が終わればいい。 その後、この案件は黒と確定され家宅捜索を行った。自宅には母親と女児の二人。 女児の体を調べるとあちこちに痣ややけどの痕があることが分かりそのまま児相により保護され、母親は任意同行で事情聴取を受けている。 そのあと父親も来たが寝耳に水だったようでかなり狼狽していた。 どれだけ育児を母親だけに任せきりにしてきたのだろう。それさえも詫びずにやれ会社だ、やれ人間関係だと己のことばかり気にするそぶりを見せる。反吐が出る。 虐待案件だけをメインに取り扱う部署として、今まで何件もの事件を対応してきたが子どもを持つことの大変さを痛感してしまい、子どもを持つ人生を思い描けなくなる。 以前大庭に子どものことを聞いたが、彼女もどうやら同じ気持ちだったらしく子どもは持てないと一言寂しそうに呟いた。 事件が片づき、外の自動販売機でアイスコーヒーを買っていると近くを親子が通った。 今夜のおかずの話や、幼稚園であったことなどを仲睦まじい様子で話している。 全ての親子がああならいいのに。 珍しく感傷的になってしまった。 「…お疲れ様です…」 「お疲れー鷹橋くん、今日はもうあがったら?多々良くんなんてすぐ帰っちゃったよ。」 そうですか、と一言返してとりあえず自分のデスクにつく。 悠はいない。 そういえば。と、席を立って資料室へ向かった。 以前悠がうわごとのように繰り返していた『はなだせんせい』という人物。調べようと思って結局調べられていない。 だが資料室にある彼の資料の中にはその人物の名前は記載されていなかった。 先生というくらいだから学校か。もしそうなら全ての学校を辿ってみるしかない。それは不可能だ。 「お前、えらい支倉悠にご執心じゃねぇか。」 「あ、お疲れ様です。ご執心というかなんというか…」 治樹は差し出された椅子に腰かけた。 「単純に興味があるんです。俺の人生の中でもぶっちぎりで不幸な人生歩んでる人だから。」 「お前ねぇ…それ他で言うなよ…」 「分かってますよ。流石に場は弁えます。」 俺の前はいいのかよ。恩師は軽く笑った。 再び資料に目を戻すと『ひまわりの里』という文字が飛び込んできた。 スマートフォンで調べると児童養護施設と書かれている。 もしやと思い、連絡先と住所をメモして連絡をとってみた。 身分を適当に偽り、御子柴悠という人物に心当たりはあるかと問うてみると、ビンゴ。彼がいた施設だった。 更に驚いたことに電話の相手は『ハナダ』と名乗った。 きっとこの人物に間違いない。 仕事を片付けたあと新幹線に飛び乗って施設まで出向いた。 近くのビジネスホテルに一泊して翌日、有給を使ってまで調べるなんて馬鹿げていると自分でも思うが、好奇心が止まらなかった。 「あ、昨日連絡したイトウと申します。」 「花田です。えーと、御子柴悠さんのことですよね。少しお待ちください…あれ、どこだっけ…」 対面して驚いた。女性だ。それも自分と同じくらいの若い女性。 悠が在籍していたときに先生をやっているはずがない。 「あの、もう少し年配の花田という先生はいませんでしたか?」 「え?ああ、父のことですか?父はもうずいぶん前に他界してしまって…私が跡を継いでいるんです。」 女性はひまわりの里という名に相応しいとても笑顔の輝いている人だった。 そんな人に、「貴方のお父さんって、子どもに手を出してましたか?」なんて聞けるはずがない。 治樹は適当に話をして、施設を出た。 施設の外では多くの子どもたちが遊んでいる。身寄りがなかったり、親に虐待を受けたり色々な理由を背負っている子どもたちなのに、みんな笑顔がだった。 (あの人はどんな風に過ごしていたんだろう…) 今となっては知る由もない。
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