春夏秋冬~春~(過激表現、無理矢理、暴行表現あり)

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春夏秋冬~春~(過激表現、無理矢理、暴行表現あり)

20××年。子どもへの虐待の認知件数が年々増加するとともに凶悪化しつつある昨今。 政府は世論に突き動かされ法整備を急がされた。だが虐待と認定する曖昧な基準やしつけとの境目など細かく取り決めするには時間がない。 そのため虐待をした者と同居する者は加害者同様子どもを守れなかったという罪を背負うこととなり、一緒くたに逮捕拘留されるという法律が作られた。 そして、児童相談所だけでは手に負えない案件が増えてきている為、警察内部にも虐待を取り扱う部署が作られることになった。 警視庁をはじめ、各道府県警にそれぞれ設けられている。 しかし結局は煩い世論を鎮めるための工作にすぎず、どこも試行錯誤して対応しているのが実情である。 春。 ここ警視庁の生活安全課の一角に設けられた部署。虐待対策室。 一人の男が段ボール箱一つ抱えてその扉をノックする。 男は礼儀正しく中にいる者に挨拶してまわり、室長と書かれた札の置かれている机の前に行き、深々とお辞儀をした。 「本日よりこちらに配属になりました、鷹橋治樹です。宜しくお願いします。」 「おーこちらこそよろしく。俺はここの室長の支倉だ。おーい、全員集合!」 全員と言ってもそこには二人しかいない。 まだ設立されて間もない部署だとは聞いていたが、あまり仕事がないのだろうか。 「新しいお友達だぞー。」 「お友達って…私はここの副室長をしてます。大庭理沙です。」 「鷹橋です宜しくお願いします。」 「噂は聞いてるよ。宜しくね。」 「俺は多々良肇。宜しく。」 「宜しくお願いします。」 「お前らも知っての通り、警視総監のご子息だ。無礼の無いように!」 「いやぁ室長が一番危ないっすよ。」 「そうね。」 警視総監の息子。どこに行ってもそう言われ続け過度な期待や過度なごますりなどうんざりする。 警察学校を卒業後、数年は交番での勤務が通例だが特例としてすぐに本部に入れてもらえることになった。 治樹は自分の机に荷物を置き、ふと机の数に違和感を覚える。 一つ。何も置かれていない机が自分の隣にあった。 その隣には先ほど挨拶された多々良が座っている。 「あの…」 「ん?」 「ここの机は空きですか?」 「いんや。……そういえばここ数日見てないなぁ。大庭さん知ってる?」 「御子柴くんなら張り込み行ってる。たぶんそろそろ…」 扉が開き、目つきの悪い人物が入ってきた。 男はずんずんと室長のところに行き5枚の写真を文字通り叩きつける。 「黒だ!!行くぞ!」 室長の合図と共に大庭と多々良は立ち上がり、簡単に身支度を整えてすでにいない先ほどの男の後を追った。 「鷹橋!行くぞ!」 「え!?あ、はい!」 覆面パトカーに乗り込む。治樹は後部座席の支倉の隣に座った。 「どこに行くんですか?」 「あ?決まってんだろ。奴さんのとこだよ。」 「御子柴くんは?」 「もうバイクで行った。あのバカまた突っ込むぞ。」 「おいおいまた俺始末書書かされんのかよ。」 「まともに書いたことないじゃないですか。」 車は公道に乗り、住宅街の中に入っていく。 少し年季の入ったアパートの前に停まり、全員拳銃のチェックをした。 今から何が行われるのか全く分からないまま、一人銃を携帯していない治樹は一番後ろを歩く。 二階建てアパートの一番奥の部屋に着き扉を開けるとすでにことは済んでいたようだった。 「何なのあんたたちいきなり入ってきて!!」 女性のヒステリックな声が響く。手には手錠が付けられており、さきほど見た男の後ろには5歳くらいの男の子がわんわん泣いていた。 「鷹橋、あの子保護してこい。」 「え!?は、はい。」 ぼそりと耳元で呟かれた指示に従う。男の子は泣きながら「お母さん、お母さん」と叫んでいた。 「おいガキ。」 「え?」 少年を抱えていると御子柴と呼ばれた男は少年を見下ろし冷たい視線を浴びせる。 少年は驚いて言葉を失っていた。 「いいか、お前はこのクソ女のことは忘れろ。一人で生きるんだ。」 「え…?いやなんなんですかアンタ…」 「おい女。もう一人居ただろう。どこだ。」 「はぁ!?……いないわよ…」 ちらりと窓側に視線をやる。 御子柴はすぐに窓に近寄り思いっきり建付けの悪いその窓を開け放った。 そして 「ちょちょちょ!御子柴くんストップ!ここ二階!!」 大庭の制止を聞かずにそのまま地面に向かって飛び降りた。 「多々良、悠を追え。大庭、母親を連れていけ。俺は児相に連絡する。」 何が起きたか分からないが、とりあえず自分はこの虐待の現行犯逮捕の場にいるのだろうなとは思った。 少年は連れていかれる母親に手を伸ばして、再びお母さんと連呼するのであった。 辺りをみるとゴミが散乱し、少年は五歳にしてはやせ細り、身長も幾分低い気がする。 ニュースで最近見かける虐待を目の当たりにすると、現実に吐き気を催す。 支倉の携帯に入電。スピーカーを押して治樹にも聞かせる。 『支倉さん、御子柴くんがもう一人を捕まえました。多々良くんから連絡がありました。』 「そうか。無事?」 『いえ…結構やばそうです。』 「オーマイガー…始末書決定…」 「え…?やばいなら助けないと!」 『やばいのは相手。』 丁度児童相談所の職員の女性が現れて、少年を保護するといい車に彼を乗せていった。 少年の母親を連れて車に乗り込むと、顔面血だらけの男が多々良に連れられて同じ車に乗り込んできた。 「テメェら警察がこんな横暴して許されるのかよ!」 「悠、説明。」 「公務執行妨害。それによる正当防衛。」 けろりとした顔でそう呟くと男も怒り心頭で何も言えなくなる。 そんな男女を乗せた車は再び警視庁へと向かった。
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