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実はね、ある年から彼の気配を遠く感じるようになってきたの。 毎年、彼は私に会う為に近づいてきてくれる。 彼が近づいてくる気配を感じると、胸が踊り嬉しくなったわ。 あぁ、また彼に会える季節になったのねって。 やっぱり好きな男に会うと、女って嬉しいものよ。 男も一緒よね?やっぱりそうよね? ましてや、頻繁に会えない好きな男と会う時って少し緊張するけれど、それでも彼の笑った顔を見たり彼に触れて温もりを感じたいのよね。 でもね・・・・ その年は、いつもの待ち合わせの時期になっても彼は現れなかった。 どうしたんだろうって、最初は思ったわ。 彼はとても真面目な性格だから、いつも待ち合わせには遅れて来る事は、そんなになかったわ。でもその時は、妙な胸騒ぎを感じたの。 だから、彼が私に会いに行く際に通るいつもの道で私は待ったわ。 いつもは、彼が私を迎える事が多いからなんだか新鮮だったわ。でも、そんな新鮮さは長くは続かなかった。 彼はなかなか現れなかった。 一日待ち、三日待って、一週間が経った。 ねぇ?何があったの? 不安はやがて焦りに変わったわ。 どうしよう?このままでは・・・・ それでも、彼を待ち続ける事しか出来なかった。 これ以上、彼に近づく事がその年には出来なかったから。 それに、彼が好きだから。 私は彼以外の男を知らないし、知りたくなかった。 彼を困らせる事も出来なかったし、したくなかったの。男って誰でもプライドがあるでしょ? だから、待ち続けたの。彼を待ち続けて、一週間が過ぎ十日が経った時よ。 ようやく彼の姿を見えた時、私は嬉しくて涙が出たわ。いつも彼が迎えに来る事を当たり前にしていた私にとって、こんなに心細い事が今までになかった。だから、涙が止まらなかったの。 彼に会って訳を聞いたわ。 「なんでいつもの時期に来なかったの?」 「私、十日も待ったのよ!」 「こんなに寂しい思いをさせないでよ!」 私って、身勝手かしらね? 彼は少し疲れた様子だったけれど、私は十日彼を待った想いをぶつけてしまったの。 でも、その気持ちは女性だったら共感してくれるわよね? 彼から聞いた遅れた理由は、私の想像の遥か上をいっていたの。 「どうして彼が?」 「何故、そんな事が出来るの?」 「このままじゃ、あなたはどうなるの?」 そんな事ばかりが脳裏によぎった。でも、決して口にはしなかったの。言葉にしたら、なんだか怖かったから。それでも彼は、私が心配しないように私を励ましてくれたわ。彼は本当に気遣いが出来る男よ。 「大丈夫、心配するな」って。 彼とは時間が許す限り、一緒に過ごして別れたわ。 「また、来年会おうな」 「・・・・えぇ」 そんな会話を最後に彼は来た道を戻っていったわ。 彼の後ろ姿が気のせいか、去年見たより小さくなった気がする。 私は気が気じゃなかった。 どうしてあなたは、こんな事態にも関わらずそんな顔が出来るの? だって、あなたが・・・・ あなたの命が・・・・ でも、彼を救える事が私には出来ない。 こんな不甲斐なさを感じた事は、初めてだったわ。 今の私には前に進むしか出来なかった。来た道を戻りながらも、彼の事で頭がいっぱいだったの。
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