他人(ひと)にわかるわけない

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他人(ひと)にわかるわけない

凛には3人の子どもがいる 見た目は普通の子どもである だが何故か小学校に上がると3人ともまもなく登校できなくなってしまっていた 6年、3年、1年と小学校に在籍している時期があったが不幸にも3人とも家にいることになったわけだ ある時、凛の高校時代のクラスメートのエリコが近所に引っ越してきた 娘同士が同じクラスということでまた付き合いが始まった あるとき、エリコが凛の家に来て、お茶を飲みながら子どもの話になった 学校に行けないのはなぜかと言う話 べつにイジメがあるわけでは無かったが心配してくれていたのはわかっていた 感受性が強い娘はすぐ叱る先生が他の子を叱っているのを自分の事のように受けて精神的にキツかったようだ それはだいぶあとになってわかったことで当時はわかっていなかったこと エリコは急にこう話し始めた 凛はお母さんに抱きしめられたことある? うちは自営業だから親は忙しくしていたからなかったかな うちのお母さんはいつも抱きしめてくれてたよ 凛は抱きしめてもらったことがないから子どもにもそうしてあげてないでしょう だから行けなくなったんだよ その頃の、凛は長く暗いトンネルに入っているような精神状態であったのでエリコに言われてそうなのかもしれないと自分を責めていた エリコは わたしは、いつも抱きしめているから絶対にうちの子は不登校になんてならないよ どうやったら、学校に行けない子になるの? と、言った 凛は学校に行けない子に育てる親なんているわけない エリコにこんな気持ちがわかるわけないと思った 凛は悲しくて、惨めな気持ちになって、やっぱりわたしが悪いのかと思った 凛は公共の相談施設に行ったり放課後、子どもを学校に連れて行ったりそれは頑張っていたのをみんな見ていた それからも、やはり学校へはなかなか行けず3人とも単位制の高校へ進学していた その頃には、3人とも立派になっていて、挨拶もちゃんとしていたし、なんら変わった感じは無かった 女の子は高校を出て、進学を勧めても働くと言ってすぐ家を出て一人暮らしを始めたようだった あとの男の子2人はそれぞれ大学、専門学校と進学して頑張っていた 凛とエリコはずっと会うことも無かったがある日、スーパーでバッタリ会った あー、と2人とも同じ第一声 エリコ、久しぶり と、いいながら昔のあのエリコの言葉を思い出して少し苦しみが蘇っていた すると、エリコが思いがけない言葉を言ってきた あー、凛 わたし、ずっと凛のことを考えてたの 凛に謝りたかったの え? あのね、ミサ(エリコの次女)が高校で学校に行けなくなってて 毎日、凛にひどい事を言ってたことに気がついて 自分がなって初めて苦しい気持ちがわかったの ほんとに苦しいもんだね あのときはごめんね あー、そうだったの 大変だね エリコのその言葉を聞いてなんだか、全部許せた気がした 何でもそうだが、他人(ひと)の苦しみなんてわかるわけない でも、理解しようと寄り添うことはできるはず エリコをみていて、誰一人として絶対にこうならないなんて断言できる人間なんていないのではないか 自分の思うようになる人生もまた、少ないのではないかと思う 凛はみんなと少し違う道を歩んだことで様々なことで悩んでいる親達と出会っていた 大勢から逸れている人達もまた、たくさんいるのを知ったことは辛かったが貴重な経験だったに違いない 長く暗いトンネルはひとまず抜けたのかも知れないがまだまだ先はあるのだ
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