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陽菜が東京に家出をして来たのは、18歳の時であった。家出と言うと不良少女を思い浮かべるかもしれないが、陽菜はそれまで進学校に通っていて、学校の生徒会長を務めるような真面目な人間であったので、周りの人間はそれを聞くと二度聞きする位驚いた。 東北の田舎から出てきて初めて見た東京は、テレビ等で見て想像していたより広くて、隙間なく建物が埋め尽くされており、昼夜問わずしてある雑踏は驚きばかりで無く、暗闇が嫌いな陽菜にとって一種の安堵感さえもたらした。 陽菜が家出の先に決めたのはまず新宿に行く事だった。田舎者の浅はかな考えであったが、新宿と言う町は田舎者でも無理なく紛れる事出来る最良の場所でもあった。陽菜がその事に気づいたのは後になってからである。 ボストンバッグ一つを持って新幹線で東京駅まで来た後、電車を乗り換え、新宿まで来た陽菜は、都会の大きさに改まって驚いた。そうしてまず今夜泊る場所を考えた。ここに着いた時か次から次へと異性に声を掛けられている。持って生まれた美しさがそうさせたのだろうが、それの乗る程子供ではない。だが家を出る時に持ってきたお金は小さな頃から貯めていたお金、10万円のみである。出来るだけ安価なビジネスホテルを探さなけらばならない。陽菜は持っているスマートフォンで検索をしてみた。一泊6000円ちょっとの場所があるのを見つけ、陽菜はそこへ泊る事にした。地図のアプリで場所を確かめるも、気がつくと迷子になってしまう。ここが田舎なら人に尋ねる事も出来るが、忙しく動いている人の群れは、話しかける事を躊躇してしまう何かがあった。陽菜がビジネスホテルを見つけたのはスマートフォンの充電も終わりに近づいていた夜の8時の事だ。ホテルの従業員が訝し気に陽菜を見るが、特に問題もなく泊まる事が出来た。
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