雨のち恋日和

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けれど私が半ば押し付けるような形で差し出していた傘を、彼は受け取ってくれた。 押し問答を続けてもらちが明かないと思われたのかもしれない。 「……それじゃあ、ありがたく」 その声にはじかれたように顔を上げた私は、困ったような微笑んだような、なんとも形容しがたい表情を見た。 が、すぐに我に返る。 「濡れてるのでこれも!」 そう言って私は、彼が傘を持つ手にミニタオルを載せた。そして軽く会釈し、足早にその場を後にした。顔が熱い。 周囲に人がいたか、誰かに見られていたか、見ていた人にどう思われたか。そんなことを気にする余裕はなかった。
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