空いた穴には幸せを詰めて

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 将来を考えている昇平をすごいと思うと同時に、自分との差を見せつけられた気がした。友だちがすごいこと、それを素直に喜べない自分に気づいて、より一段。すっと自分の立っている場所が低くなった。  そっか。  本当に一言、それだけ。返事にもならないような言葉だけを返して、そのやりとりを終わらせてしまった。  その反応をどうとったか、少なくともいいと思われないことは確かだ。分かっていたから俺から話しかけることは後ろめたく、昇平から声をかけられることも減ってそれきり。昇平の性格からして、黙っていた申し訳なさも手伝ったのかもしれない。だとしても、それを浮き彫りにしたのは俺だ。  何度も連絡を取ろうとしたのに、手は動かない。昇平から連絡がくることもない。 「それでね、この子がみけのおともだちなのよ。分かった?」  隣では、種を使った器用なおままごとが始まっていた。全部同じにしか見えないのに、由利には違いが分かるらしい。 「人と比べるのは当たり前よ」  おばあさんの視線の先には、並べられた種。  よく見るとひとつひとつに目と口がついて、本当に猿の顔になっている。母さんがマジックで描いたのだろうか。笑った顔、怒った顔、泣いた顔、すねた顔、とぼけた顔。 「みんな違うもの。得手不得手も、考え方も何かを選ぶ時期も。あなたはきっとその一つを急に知って、戸惑ってしまっただけね」  おじいさんは相変わらず、由利とみけを穏やかな笑みで見守っている。  おばあさんはそんなおじいさんを見て、笑みを浮かべた。
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