空いた穴には幸せを詰めて

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「何て言って会ったらいいか、ずっと分からなくて」 「春休みだものねえ」  こんなことまで聞いて、図々しいとは思った。でもこのきっかけまで見逃したくはなかった。  それでも視線は合わせられない俺に、おばあさんの優しく笑う気配が聞こえる。 「よくおじいさんがね、私の好きなお饅頭を買って来てくれたの」  視界の端で、おじいさんが照れ臭そうにはにかんだ。「いいことがあった時とか、謝る前とか。何か話したい時にね」 「きっかけに、ですか?」 「そうよ」 「そう、ですか」 「ええ」  うなずいたおばあさんに、ありがとうございますと頭を下げた。 「由利、帰ろう」 「はーい」  素直に手をあげた由利と挨拶をして、今度は二人で来た道を戻る。
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