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「どうしたんだそれ」
三毛猫のぬいぐるみなんて持ってたか?
「みけだよ」
それは近所で飼われている猫の名前だ。人懐こくて、よくこの界隈を闊歩している。
「に、似たぬいぐるみ?」
「ちーがーう、みけなの!」
「はいはい」
近づいてしゃがみ込むと、ぬいぐるみの鼻はひくひくと、しっぽはふらふらと動いた。ずいぶん精巧な作りだな。
「にゃあ」
「鳴くのか」
右手を伸ばしてあご(らしき部分)を指でなぜる。するとごろごろとのどを鳴らして、茶橙の前足が右手の甲に触れた。
その前足にあるのは、見覚えのあるこげ茶の丸。
「……みけ!?」
反射的に手を引くと、みけもどきは不服そうにうめいた。
え、なに、夢? そっくりさん?
いや決してそっくりではないが。みけはもっとシャープだ。ちょっとぽっちゃりしていた気がするが、由利に抱かれているこいつよりは確実に細い。
恐る恐る手をのばして、みけもどきの前足を手のひらにのせる。見直しても消えない、こげ茶の毛でできた丸は、みけのトレードマーク。
「みけなの?」
「みけだよー」
「なんで」
どうにも夢でない現実感があるが、夢の中にいる最中はそんな判断はできないのではないだろうか。夢だと思っていたと分かるのも、結局は目が覚めてからである。
いやでもやっぱり夢だとは思えない。
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