空いた穴には幸せを詰めて

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「だってまるまるびよりだよ」 「え?」 「まるまるになるのにいい日なんだよ」  どんなだ。  心の中の今おそらく一番的確な突っ込みは、大きすぎる衝撃に負けて音にならなかった。  ねーと由利に同意を求められたみけは、答えるようににゃあと鳴く。どっちも適応力高すぎだろ。  由利、ちょっとは疑問に思え。  みけ、身体の構造は大丈夫なのか。  庭におろされたみけは、しかし器用にとてとてと歩き回っている。少ししてお隣さんとの境目にあるアルミ柵までたどり着いたみけは、立ち止まってこちらを向いた。 「来て、だって」  嘘か誠か通訳した由利は、ちょっと待ってねと部屋にあがる。それからガラス扉の鍵をかけると、玄関へ行ってしまった。  固まったままの俺と、見つめ合うみけ。 「行ってきまーす」  元気な声に金縛りが解ける。はっとして玄関に向かうと案の定、靴を履いて準備万端の由利がいた。 「行かないぞ」 「ついてこなくていいよ」 「だめだ」 「じゃあ行こ」  このまま由利を抱えて連れ戻すことは可能。でもほぼ百パーセントの確率で泣かれる。泣き止んで機嫌を直してくれるまで、長ければ一時間以上。ついでに母さんが帰ってきたら由利は真っ先に言いつけるのだろう。 「十五秒待ってろ」  簡単に浮かんだ図式に腹をくくって、由利の帽子と薄手の上着、自分のカーディガンを持って玄関に滑り込む。スニーカーをつっかけて、おおよそ時間通り。  わずかな期待を抱いて外に出たが、律義にもみけはまだそこにいた。  由利との会話は本当に成立していたのだろうか。いつの間にか動物語を習得していたらしい妹を見ると、渡した帽子をかぶって満面の笑み。(上着は着てくれなかったので俺の荷物持ちが決定した。) 「お待たせー」  由利が歩道に出ると、みけも柵をくぐって隣の敷地から外に出てきた。  まるまるとした猫と保育園児、一歩後ろに一応今日から高校生。ありふれていそうで見たことがないトリオの散歩が始まってしまった。
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