空いた穴には幸せを詰めて

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「……あ、えーと」  お邪魔してます、こんにちは。  挨拶しようとして、思い出した。  去年、葬式やってなかったっけ。奥さん一人になってしまったけど、猫もいるし友だちも多いし大丈夫ねとか、そんな会話が食卓で交わされていなかったか。 「四十九日なんてとっくに過ぎてるのにねえ」  ああやっぱり人間じゃないですよねえ。だってちょっと透けてるもん。見て見ぬふりをしようと思ったけど。 「こんにちはー!」  手本みたいな挨拶をする由利にうなずいて、ひきつった顔の俺に目礼をして、おじいさんはおばあさんの元へ歩いていく。 「久しぶりねえ」  れいれいびより。数字の零でも麗しの麗でもなく、幽霊の霊。  呆然とする俺のカーディガンの裾が、くいくいと引っ張られる。 「おにーちゃん、おばけって足あるんだね」 「うん……うん」  もっと突っ込むところがあるだろう、妹よ。  おかしいと思っているのはまた俺だけか。  おばあさんとおじいさんは連れ立って縁側にこしかけた。おばあさんが話をして、おじいさんが穏やかな笑みを浮かべてうなずく。みけは縁側に飛び乗って、おじいさんの近くにからだを落ち着けた。なんとも微笑ましい光景だ。  微笑ましい光景だけど。  これでもいいかなんてうっかり思いかけたが、おそらくよくない。こんな風に幽霊があふれたら何かしらの支障が出そうな気がする。
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