空いた穴には幸せを詰めて

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 こういう時はどうすればいいのか。  中学校では習わなかった。たぶん高校でも習わない。学校はいつだって重要なこと、そのピンポイントは教えてくれないことが多いのだ。  例えば目の前で起こっている謎現象への対処法とか。  例えばその鍵を握っているっぽい妹への接し方とか。  例えば喧嘩もできずに不仲になりかけている友だちに、何て謝ったらいいのかとか。 (ああ、もう)  全然忘れられない。  靴底が地面に押し付けられて悲鳴を上げる。無理やり息を吐き出すと、絞られた肺が痛んだ。 「おにーちゃん、あそぼ」 「えっ、おい」  由利がふいに俺の手を引っ張って、おばあさんとおじいさんのところへずんずん歩いていく。 「おじーちゃん見てー。みけも」  由利はおじいさんとみけの間に、ポケットから何かを取り出して置き始めた。小さくて丸い真っ黒な粒には、白いハートが浮かんでいる。家の柵に這わせてある植物の種だ。由利はおさるさんと名付けて可愛がっている。 「妹さん、遊んでくれるお兄さんがいていいわね」 「ああ、いえ」  細められる優しい視線は俺には不釣り合いで、未だ使われていない由利の上着に目をそらした。
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