空いた穴には幸せを詰めて

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 それはたまたまだ。普段だったらきっと、一緒にいるのは由利じゃない。 「男の子って大きくなると、あんまり家族とすごさないでしょう。お友だちと遊んだりして」 「……そうですね」  できるのならそうしたかった。  昇平と遊んでいるはずだった。一緒に宿題をやっていたように、同じ高校の課題を解いてそれから遊ぶ春休みがあるんだと、少し前まで思っていた。  小学校も違う、部活も違う、けれど気が合った昇平と、同じ高校に行くのだと思っていた。約束はしていなかったが、志望校の話をした時、高校生活を想像した時。口にあがるのは同じ高名で、だからあえて確認することなんてしなかった。  でも今思えば、確かに昇平はいつからか、受験や高校の話を避けていた。その頃からきっと、考えていたのだ。 「あなた、高校生?」 「今年から」 「あらおめでとう」 「ありがとうございます」  合格発表の日。  喜びと一緒に降ってきたのは、昇平と一緒の高校生活はやってこないという事実。  隣の県の高校に行くのだと、本人から告げられた。最後まで迷ってあの高校も受験もしたけど辞退した。やりたいことがあって行きたい大学があって、その勉強がしやすい高校に行くのだと言う。 「それにしては浮かない顔ね。行きたい高校じゃないの?」 「第一志望です」 「じゃあどうして?」 「友だちが、別の高校に行くことになって。そいつと比べてしまって、それが嫌になって」  同じ高校でないことが嫌なわけではなかった。  確かに驚きはした。寂しくも思った。もっと早く言ってくれれば良かったのにと思いもした。でもそれは昇平の人生で、昇平の自由だ。  そう思ったのに口が動かなかった。 「おめでとうって、言えてなくて」
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