空いた穴には幸せを詰めて

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空いた穴には幸せを詰めて

「おにーちゃん」  四月一日、快晴の月曜。  由利は、キッチンで遅い朝食を物色していた俺の服を引っ張った。しかしその視線はテレビに釘付けのまま。 「まるまるびよりってなあに?」  画面のど真ん中にぶら下がった『○○びより』の看板。その両脇に、子ども受けしそうな動物の着ぐるみとお姉さん。 「見てれば分かるよ」  先に聞いてどうする。これから解説してくれるだろうに、製作者が泣くぞ。 「終わっちゃったの」 「……じゃあ再放送まで待って」  あるか知らないけど。 「まるまるびよりってなに?」 「なんだろうな」  そもそもそんなものは存在しない。 「いじわる。おかーさんに言おーっと」 「おい」 「じゃあ教えて」  若干六歳にしてどこでこういう技術を身につけてくるのだろう。俺の九年前はもっと阿呆だった気がするが、これが男女の差というやつだろうか。  食パンなし。冷凍ご飯あり。冷蔵庫には卵、ウインナー、納豆、ヨーグルト、牛乳。その他常備されているご飯のお供や調味料。 「ねーえ」 「はいはい」 「はいは一回!」  お前は親か。 「いいか? 一度しか言わないからよく聞けよ」  由利の前にしゃがみ込んで、至極真面目な顔を作る。面倒なので由利が分かりそうで分からないラインの解説をしよう。大人ぶりたいお年頃なので、少し難しいくらいの方が素直に受け入れてくれる。
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